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chapter.7-48

「…貴方宛に預かっていたもの、返します」 寝屋川は染みの浮いた紙束を受け取り、四つ折りを広げた。 目視にして10枚以上はあろう、長い長い伝言だった。 コピー紙の端まで詰め込まれたアルファベットを追う内に、背後へ透けるように生前の部下の顔が蘇る。 この失われたような10年近い歳月。それを埋めるには余りに少ない字数だが、まるで変わらぬ字体の懐かしさへ黙った。 最後の審判を待つ彼らが間際に何を残したのか。 題字は紛うことなく、自分宛だった。 ”親愛なる大尉、お元気ですか。 両親、兄弟、恋人、色々手紙を書く先を考えたのですが、結局一番に浮かんだ貴方宛にペンを執りました。 (未だ実質任務中ですから無理もないでしょう。それに貴方が知っての通り、僕は実家と折り合いが悪いので) 僕らが捕虜になる手前、大勢の仲間が撃たれて亡くなりましたね。 敵は武装勢力だけでなく…イラク警官や国家警備隊とは本当に恐ろしいもので、僕らに支援や仕事をくれと乞うくせに、我々が不利になった途端寝返り、こちらに銃を向けるのです。 そんな事は大尉が一番ご存知でしょうが。僕は土台彼らを理解できる気がせず、このファルージャという土地で戦う度、只管底の見えない泥を掬ってるような気分になります。 ハイウェー10号線の南は僕らを笑顔で出迎えましたが、ファルージャは小さい子どもまで僕らを殺すと息巻いて…(修正の跡)ああ、貴方の顔が見たいです。 僕らが用も無く貴方の宿舎の回りをうろつくのは、貴方の顔を見ると安心するからですよ。 貴方はCPA(連合国暫定当局)やJTF(統合機動部隊)なんかと違って、いつも我々の味方ですからね。大尉ともなると本当はもう少しお高く留まるものですよ、経験論。 この手紙が届いたのはいつでしょう。 僕は藁にも縋る気持ちで年端も行かない女の子に託したのですが、貴方に届いているという事は、彼女は相当に優秀なエージェントだった様です。 僕とレイ、マイク、スコット、アーディンはこの穴蔵で捕虜となり、もう早くも一週間が経ちました。驚いたことに我々の身柄を引き受けたのは白人で、武装勢力と手を組みつつ武器商社をやっている様です。 拷問らしい拷問がありません。 フレンドリーな女の子(パトリシアと言います)が何度も遊びに来ます。 先日、CEOと話す機会がありました。 我々と敵対している身ですが、態度から彼なりの矜持を感じました。 不思議な事ですね、サー。 我々は明日、彼に我々の始末をお願いする予定です。 どうも明日には武装勢力への引き渡しが済み、我々はいよいよ五体満足で居られなくなる様なのです。 僕は人として死にたい。皆そうでしょう。 四肢を捥がれ、人間かも怪しい状態で「殺してくれ」と乞うなど、まっぴら御免なのです。 だから明日、僕らは彼に引き金を引くよう頼みます。 CEOは引き受けてくれる様な気がします。確証は有りませんがね。違う場所で逢えていたら、僕らは友達になれていたんじゃないかと思います。

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