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chapter.7-51
当日の夜、仕方なしに寝屋川は中隊指揮所のテーブルへ紙を広げた。
2、3行、顔を思い浮かべながら文字を書くも、流石に面倒になってペンを放り出し、背後で含み笑いを浮かべているウッドへ苦言を呈す。
「俺はそんなに薄情な上司か?」
「いいえ、まさか」
ウッドもその頃楽しそうだった。今とは比べ物にならない程、思えば毎日そうやって笑っていたかもしれない。
「逆に気にし過ぎですよ、サー。そんなものは現場で一言、いつものように良くやったと言えば良いのですよ」
そんなやり取りをした直後。
両者は一本の電話で呼び出され、大隊指揮所へと急行した。
そして明くる日の4月2日、遂にJTF(統合機動部隊)よりMEF(海兵遠征軍)へファルージャ攻撃命令が下された。
JTFはファルージャを「イラク最大の悩みの種」と評したが、政治的には重要視されておらず、上層部の対応は遅れがちだった。
CPAの戦略的フェーズ、タイムラインもまったく不明のまま海兵隊は投入され、激戦区で泥沼の戦いを余儀なくされた。
それから数年後の2011年、資金力・現地バックアップ不足や市民の反感を敗因に、米軍はイラクより撤退する。
2014年頃にはイラク国内で急成長したISILとの戦闘が激化し、イラク死者数は過去7年で最悪を記録する惨事となるのだ。
「此処で一旦お別れですね、サー」
攻撃命令で現地入りする手前、バーナビーらの小隊とは別々の車輛へ乗り込むことになった。
青年は同僚のレイやマイクも伴い、ヘリやハンヴィーのエンジン音が喧しい中、寝屋川の下まで挨拶に来ていた。
ファルージャに入って以降も暫く別のルートで動く事になる。合流は早くて明後日になるだろうか。早くも日焼けした顔が妙に大人びていて、寝屋川は安心して送り出したのを覚えている。
「ああ。部下と揉めるなよ、バーナビー”先任曹長”」
「レイ聞いたか!貴様は俺の部下だ!」
「サー、何でコイツなんですか?俺の評価は?俺は戦地任官でお願いしますよ」
連中は特に仲が良かった覚えがある。出立前だろうが基地と変わらぬ騒ぎ様は煩わしくも、穏やかな喜びがあった。
この先幾らでも見られるだろうと踏んでいた日常。
日常?日常とは一体。
「うるせえな、黙って小隊に合流しろ。五体満足で帰ったら幾らでも推薦書は書いてやる」
「聞きましたよ、宜しくお願いしますサー」
「昇進できるかは別の話な」
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