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chapter.7-52
その場で数分雑談した。これから作戦に入るとは思えぬほど緩やかな、自分達のホームに返って酒を囲んでいる心地で、故郷の話を幾つかした。
そして雲が真上を通過した頃、俄かにバーナビーは生真面目な顔で立ち上がり、同僚と敬礼をして息を吸い込むや改まって告げた。
「それでは!」
さようなら、等という別れは勿論無かったが。
見慣れた部下らの背中は、今日の様な青い空の下、真っ直ぐ自分たちの任務に向けて遠ざかって行った。
写真に収めたくなるほど綺麗な光景だった。
その画だけが強烈に焼き付いている。
真夏の気候の様な、変に白い雲が浮かんでいたのも覚えている。
暑い日だった。
今日の様にとても暑い、
それでいて、全員が生きていて、全員が笑っていた。
寝屋川庵が帰りたかった世界が其処にあった。
彼らが武装勢力に拉致され、消息不明になり。世間がすべてを忘れて10年経とうが、寝屋川庵はあの青い空の光景を求め、彼らの姿を捜し続け。
「俺が推薦書を書いてやりたかった」
暗い洞窟の様な地下室の中、手紙を黙読していた当人は漸く口を開いた。
「先に二階級特進になった、俺の推薦書は間に合わなかった、書いてやれば良かったんだ、求められていたあの時に…そんなもの幾らでも書けた」
パトリシアは黙って懺悔を聞いていた。
骸の目は勿論、何も言わない。不思議だ、その当人である事は確かなのに。
「未来を生きろ?そう…そんな事は、言われなくても分かってる。俺が此処に来たのは、結局全て自分の為だ。現実を受け入れられないんだ、もう10年も経つのに、居なくなった事を微塵も受け入れられない」
手紙にはきっと肯定的な内容が溢れていたに違いない。
けれど仕方ない、矢張り哀しいものは哀しく、結局は残された者の心の中にある問題なのだ。
寝屋川は少女の存在を思い出したのか、どうにか重い腰を上げ手紙を折り畳んだ。
そして戦場でする様に雑に上着のポケットへ押し込み、上司として事の礼を述べようとした。
この場はそれで終いになるだろう。
なのに余計と知りつつ、パトリシアは彼を遮り己の過去話を始めていた。
「あの…少し、思い出しました」
相手は微動だにせず聞いている。元々気が長いのかもしれない、そもそも10年も捜しているなら、そうなのだろう。
「バーナビー…さん?でしたよね、私にも優しい人で、ちょっと…馴れ馴れしかったけど…貴方が、そんなに悲しむのも無理ないくらい」
勝手を言うな、と罵られるのを覚悟で話を続けた。
此処に彼は留まり、独りで抜け出せないと思ったからだ。それから、何故か、ほんの少し相手に怒りが湧いて。
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