3 / 38
第3話
せっかくアラームをかけずに寝たのに結局いつも通りの時間に起きてしまった。
長年の習慣なのでしょうがない。諦めてベッドから起きだして支度をする。
ただ、いつも出社する時間になっても家を出なかった。
判決を言い渡されるのを待つ罪人のように時計の秒針をただただ見つめていた。
あぁ、この電車を逃すと絶対間に合わない
そう思った途端、あんなに意気込んでいたのが嘘のように全身が凍りつく。
どうしよう、心臓が破裂しそうだ。バカなことをしている。社会人としてどうかと思う。
昨日の自分を殴りたい。罪悪感に耐えきれず慌てて家をでた。会議は10時からだ。
出社時間には少し遅れるが会議にはまだ間に合う。
慣れた道を急ぐ足は止まらないが あぁ、俺は本当にだめな奴だと乾いた笑いが漏れる。
どうしてまた会社に向かっているんだ。
辞めるんじゃなかったのか。
またあの生活を繰り返すのか、やっぱり抜け出せないのか。
気持ちが揺れる。
自分が何をしているのか、どうしたいのかわからなくなった。
いつもの車両に滑り込むと窓ガラスに映った自分の姿をみて、あぁそうだったと思い出した。
もう遅いのだ。必死でたどり着いてもこの髪だ。
いや、これでいいんだ。もうこの方法しかないのだから。
走らなくていい。ゆっくり行こう。乗り換えの駅で売店に寄る。いつもは食べない朝ご飯を買った。
サンドイッチに口をつけようとした瞬間に携帯が鳴った。上司からだ。
反射的に通話ボタンを押しそうになったが、やっとの思いで留まってポケットにしまい込む。
心臓が痛い。ハンカチを取り出して汗をぬぐう。
電話が鳴りやむまでそこから動けないでいた。
そこから何度も電話が鳴った。電車がきたのに乗ろうとしない俺に、周りからの視線を感じる。
何時間もそうしているように感じたが、実際は10分程度だ。俺は耐え切れずに電話をとった。
「ふざけるな」から始まって罵倒が続いた。こちらの心配や遅れている理由をきくことはせず、ただただ怒鳴られた。
途中からはもう聞く気がしなくなった。
携帯を椅子の上に置いてその場から離れた。
もう駄目だった。こんな会社も、こんな風にしかできなかった自分にも嫌気がさした。
もう何も考えられなかった。考えたくなかった。しばらくフラフラとホームを歩いた。
ピークを過ぎたホームはそれでも列が反対側にまで伸びている。
別に、本当に死にたいわけじゃなかった。
少しだけ、それでも別にいいかと思っただけだった。
そんな時駆け込んできた人にぶつかり体がぐらりと揺れる。どこかで誰かが「あ」と言ったのが聞こえた。
ともだちにシェアしよう!