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第4話

「わっ」 急に襲ってきた冷たさで一気に頭が覚醒する。 電車のホームから落ちたはずの俺は、なぜか浅い水の中にいた。 全身とまではいかないが、スーツの大部分が濡れていて気持ち悪い。 草木が生えているのでてっきり外かと思ったが、くぼんでいる床は固いし天井があるのでどうやら建物の中のようだ。 死後の世界を信じていたわけじゃないが、あるんだなぁとぼんやりと思う。 凄く綺麗な場所だし神聖な感じがする。もしかして天国かと思ったが天国に行けるほどの善い行いはしてない。最後は自殺のような事故だったしな、と思い直す。死ぬ時は一瞬だったんだろう。痛みなどは感じなかった。 そんなことよりもう会社に行かなくて済むのだと安堵した。ここが天国でも地獄でもいい。あの生活よりはなんだってマシだ。携帯の着信音にもう脅えなくてもいいのだ。 そういえばあのベンチに置き去りにしてしまった鞄と携帯の中には社外秘の資料や取引先の連絡先が入っている。コンプラ的にアウトだ。会社の信用に関わる。誰か親切な人が拾ってくれますように。 俺は死んでまで何を考えているんだろうとちょっと笑った。 状況を把握しようと周りを見渡すが人の気配はない。しばらく留まっていたが、いつまでもこうしていられない。そう思ってくぼみから抜け出しスーツを少し絞る。 歩きにくいが草木を抜け壁伝いに歩く。どこかに出口があるだろう。 西洋の映画にでてくるような甲冑をきて、扉の前に人が立っていた。 物音で気づいたのだろう、俺を見つけるなり凄い形相で近づいてきた。 「わわっ」 近くにきたなりに胸倉を捕まれて怒鳴られる。 どうしよう、何を言っているのか全然わからない。聞いたことのない言語だった。 よく見るとその人の髪の毛も緑色で顔立ちも日本人離れしていた。 死後の世界は色んな国の人とごっちゃになっているのかな。それかこう見えて天使だったりして。ビビりながらも顔をまじまじとみてしまった。 その人は俺の髪を強く引っ張って何かを確認したかと思うと、筋肉のついた腕で軽々と俺を持ち上げた。ひょいと持ち上げられたけど、俺175cmはあるのに。 もう死んでいるから殺されることはないだろうと大人しく運ばれた先で、着替えさせられて馬車で運ばれていく。俺のスーツは返してもらえなかった。 最初は(たぶん)怒っていたり質問していたりいた人たちが、言葉がわからない事を察してだんだん話しかけてこなくなった。

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