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第16話
「おい、ルードヴィク。こいつだろ」
ガタイのいい褐色の男は俺の着ている洋服の首の部分を持って、まるで猫でも差し出すかのようにルートの前に突き出した。あっという間の出来事で頭が追い付かない。ぐおん と揺られた勢いで、黄色と黒でまばら髪が目の前で揺れる。慌てて隠そうとするが隠すものがない。逃げ出そうにも足は宙に浮いていて身動きが取れない。
周りから息をのむ音が聞こえた。
「ミト!」
ルートが俺を見て駆け寄ってきた。首元を掴んでいる男から帽子を奪うと慌てて俺の頭の上にかぶせた。
「ルート、あ、ありが」
「ケネス!!何てことをしている!」
ルートの憤怒の声に体がビクっと反応した。言われた本人は平気な顔で俺から手を放して、耳の穴をほじっていた。汚なっ!
言ってもしょうがないと判断したのか、ルートは俺に向き直った。
「ミト、驚かせてすまないが今から僕と一緒に来てほしい」
なんとなく察してはいたが、一応聞いておこう。
「ど、どこに?」
「それは」
ルートが言い淀んで俺から目をそらす。や、やっぱり言えないところなんだ…!
思わず体がおず…と動く。恩人でも無理なものは無理だ…社畜生活にはもう戻りたくない。
どうにかして逃げられないかと頭をフル回転させる。
「いいからさっさと行くぞ」
そんな頭の中の抵抗空しく、先ほどのケネスと呼ばれた男に再度首を掴まれ引きずられていく。
「え、ちょ、ちょっと待ってルート!俺、一緒にはいけない。それに今からなんてそんな」
シオンはまだ学校で、急に俺がいなくなったらあいつは、あいつは…!
必死で馬車の装飾に手をひっかけて抵抗する。先ほど買ったばかりの材料が落ちて袋から飛び出した。懇願するようにルートをみたが結局ケネスに抱きかかえられ馬車に乗せられた。
「ルート!!」
「ごめん、ミト。詳しくは後で説明するから。それに」
ルートが乗ってきたものよりもさらに豪華な装飾が施された馬車の扉が閉じる。ルートの言葉を聞き終わる前に走り出してしまった。
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