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第17話

あれ、一緒に乗らないの。 色んな意味で唖然としていると斜め前から「あーめんどくせー」という声が聞こえた。 なんでルートじゃなくてケネスが乗っているんだ。 道中、かなり気まずかった。 いや気まずいと思っているのは俺だけなのだろう。彼はこちらを気にせず悠々とくつろいでいる。長い足を放り出して眠たそうに窓の外を眺めている彼を少しだけ観察してみた。年はルートと同じくらいにみえる。乱暴っぽい物腰に似つかわしくない綺麗な金色の髪が馬車の振動で揺れてキラリと光る。黙っていたら相当なイケメンだな。ルートとはまた違ったタイプだが、日本にいたらさぞモテるだろう。腰に剣を下げているし、身体つきからして兵士か何かだろうか。まさか俺の監視役…? 一度、気まずさと好奇心に耐え切れず「あの、こ、この馬車どこに向かっているんですか」と聞いたが答えが返ってこなかった。それどころかこちらに視線をよこすこともなかった。 まぁ、これから殺される人間に話すことなどないのだろう。俺はコミュニケーションをとることを諦めた。 窓の外をみる。本当にこれからどうなるんだろう。ルートのあの反応を見る限り俺の未来は良い事にはなりそうにない。アジア人をみかけないなと思ってはいたが、納得だ。みんな殺されるか、どこかに収容されているか、もしくは見つからないように隠れているんだろう。 自分でいうのもなんだが俺は無害な人間だと思う。仕事と家の往復だけ。人を殺したこともないし、陥れようと思ったこともない。不本意に傷つけたことはあるかもしれないがわざと傷つけようとしたことは覚えている限りはない。不吉だというのならもう街には行かない、人前に出る事は避けるようにしよう。 だから、シオンのそばに居させて欲しい。あの子には祖父母がいるが、両親の代わりにはならない。もちろん俺にだってなれやしないが、彼に必要とされていると思う。いや、それよりも俺が彼を必要としているんだ。俺は器用な人間じゃない、人と接するのもあまり得意ではない。シオンのおかげでこちらの生活に馴染むことができた。周りの人も俺を受け入れてくれた。彼に支えてもらってばかりだった。いつの間にかシオンを家族のように思っていたことに気づく。 こちらでの生活は贅沢とは言えないが、現世に比べるとかなり人間らしい生活ができていると思う。日の出とともに目が覚め、日が沈んだら休む。体を動かし汗をかいて仕事をする。雨の日は雨に当たるし、嵐の時は風を全身で感じた。自分で育てた食材で食事を作る。生きている実感がある。あまり人と関わってないのもあるが俺を傷つける人間もいない。 シオンと暮らして、時々ルートが遊びにきてくれて。俺は今の生活に満足していた。 死んだはずの身体が死にたくないと震える。せめて、シオンが大人になるまではそばに居させて欲しい。 こちらに来てからの一年弱の思い出に耽っていると、目の前の景色がぼやけて鼻の奥が痛んだ。ケネスに気づかれないようそっと涙をぬぐった。

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