それから俺は美女たちの手によって隅々まで洗われた。浴室も俺が住んでいた小屋が丸まるすっぽり入ってしまうくらい広々としていて、なんだか居心地が悪い。白を基調としたタイルにゴテゴテしすぎない品の良い装飾が施されている。俺は汚してしまわないように極力じっとしていた。 お風呂から上がると体にクリームのようなものを塗られ、軽くマッサージされる。これ、なんかあれだな。小学生の時に読んだ純文学のあの最後食べられそうになる料理屋の話みたいだな。 美女達はほとんど何もしゃべりかけてこないので、次に自分が何をされるのか予想がつかなくて不安になる。髪の毛をとかしたり乾かしてもらったりしている間、彼女たちの指が変に震えている事に気づく。その手で鋏を手に取ったのでぎょっとする。え、この流れで切るんですか。鋏カタカタいってますけど。 時折「あぁ」とか「なんてこと」という声が聞こえる。そんなに嫌なら自分で切らせてくださいと思いながら、鋏を持って震えている人に怖くて声がかけられず流れに身を任せた。ヘアスタイルなんてものは気にしてないが、できたら耳は切らないでほしい。 どうやら無事に終わったようだ。久しぶりにみた鏡の中の自分は、思った以上に日に焼けていて不安そうな表情をしていた。髪の毛は染めていた部分を綺麗に切り落とされ、地毛の黒髪の部分だけになっていた。短くなったが耳より下までは伸びていて、現世にいた時よりもかなり長い。前髪も金髪部分をきっただけで長いままなので、横分けになっておでこと眉毛が丸見えだ。会社勤めしていた時だってこんなに視界が開けたことはなく、違和感しかない。それにまるで金〇先生みたいで似合わない。 そういえば彼女たちも綺麗な長髪で、ルートとイネスも長髪だ。シオンや老夫婦、俺がいた街の人たちは髪が短い人がほとんどだし、長くてもこんなに長髪ではなかった。こっちでは流行っているのか？ 聞いてみようかと彼女たちのほうを向くと、鏡越しに美女２人が俺をうっとりとした目で見つめているのがみえた。え、なんだろう。ま、まさか俺に気でもあるのかな。いやいや、自惚れない、騙されないぞと思ってもう一人を探すと、何やら必死で切った後の髪を拾っていた。片付けるなら一気にほうきで掃いたら早いのにと思ってふと手元をよく見ると、恍惚な顔をして黒い髪の毛の部分だけ拾っていた。 ひ、ひいいいい！ いくら美人でも流石にちょっと引いてしまった。まさかの髪フェチ。しかも切った後のやつって...マニアックだ。 「あ、あの！」 思わず声をかける。ハッと我に返った彼女たちはいそいそと片づけをして、部屋からでていってしまった。