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第22話
その日は朝まで眠れなかった。食欲はないが勿体ないと用意された食事を食べようとしたが、どうしても体が受け付けなかった。午後には限界がきたのか気づいたら寝ていたようで、目が覚めたら部屋は暗かった。どのくらい寝ていたんだろう。寝過ぎてしまった時のような頭の痛みと重さがあった。頭がぼうっとする。ベッドから起きてベランダへ出る。空を見上げてみるとそこに星は一つもなく、真っ黒な空が広がっている。月ももちろんないが、代わりに日食でみられるような細いドーナツ状の光が浮かんでいる。この空を見てももう驚かなくなった。けれど地球にいないという現実を突き付けられている気がして、また気持ちが重くなる。全く気づかずにのうのうと暮らしていた事が今では信じられない。思えば違っている点が山ほどあった。それを全て死後の世界だからと勝手に納得して平気でいたのだ。こちらに来たばかりの頃 精神的にまいっていたのもあるが、それにしても馬鹿すぎる。
はぁ・・・と息を吐く。
「帰りたいな」とこぼしたところで下のほうで何かが動くのがみえた。ガサっという音も聞こえる。人かもしれないと思い慌てて部屋に戻って扉を閉める。冷えた体をベッドの中に潜り込ませながらふと思う。俺、帰りたいってどこに帰りたいんだろう。あの怒られるばかりの生活?それともシオンとの生活?そもそも帰れる場所なんてあるのだろうか。
―――――――――
俺は確かに会社を辞めたかった。それが難しいと思い込み死すら頭をよぎったが、こんな形は望んでいない。
現状を理解するのも気持ちの整理をつけるのも今は難しい。しかし無情にも朝は来て、ヒゲも伸び、お腹も空く。俺が生きているということは確かなようだ。
あれから少し横になっているとすぐに朝になった。食事を用意され、相変わらず食欲はなかったが、食べられそうなものを無理やり口に入れて何も考えないよう咀嚼する。飲み込むときに苦労したが、時間をかけて完食した。食事のあと数日ぶりにお風呂に入り身綺麗にする。
しばらく悩んだが、意を決して部屋の外へ出た。廊下を歩きだすと扉の外にいた大柄な男性が何も言わずについてきた。もしかして部屋から出たらまずかったのか。ルートの場所で思い当たるのは最初にお世話になっていたあの家しかない。まずは出口を探さないといけないが、それが中々みつからない。この広すぎる建物内を歩きながら思い出したがここは王宮と言っていた。すれ違う人々が俺をみて驚きの声を出した後に深々とお辞儀をしていくので、道を聞くにもどうにも聞きずらく会釈だけして通り過ぎていく。疲れてきたのもありもう諦めて部屋に戻ろうかとしたが、帰り道もわからなくなってしまった。
だ、誰か助けてくれ…!
泣きそうになりながらも見つけた階段を下りようとすると、後ろから「お待ちください」と声がかかった。後ろをついてきていた人が俺の横にきて膝をつく。
「オーズ様、どちらへ行かれるのですか」
「出口を探していて、その…外に」
そう言った瞬間顔を青ざめ慌てて頭を下げられる。
「そ、それはどうかお控えください。その様な恰好ですと人々が驚いてしまいます」
自分の着ている服を確認する。部屋にあった中で動きやすいものを選んだつもりだったが、もしかしたら寝間着だったのかもしれない。少し恥ずかしくなった。
「どうぞこちらにおいでください」と連れてこられた部屋でソファに座る。持ってきてくれたお茶が美味しい。しばらく歩き疲れた足を休ませていると、廊下をパタパタを走ってくる音が聞こえた。
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