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第27話

せっかく集まってもらったご家族やここにいる人達、そしてルートには悪いが誰一人として名前が覚えられていない。元々人の顔と名前を覚えるのは得意じゃない上に人数の多さ、その上に緊張も相まってもうさっぱりだった。覚える事を早々に諦めて、ひたすら花を渡す事に集中した。序盤で気がついたが、白い花の中に一輪だけ黒い花が入っていた。白い花は本物だが黒い花は造花だ。残りの人数と花の本数の感じからして一人一本ずつのようだ。間違えて入ったのか? ルートの家族はみんな美男美女ばかりだった。日本ではテレビですら見た事がないような人達が並んでいて、目の保養にはなるが慣れていなさすぎて疲れる。 それに家族とはいうが、列に並んでいるのは10代から40代前半までの人達のようだ。この花の事といい、こちらの風習なのだろう。しかし家族に友達ができたらいちいちこうやって皆呼び出されるのかと思うと気の毒だ。これだけの人数だ、相当な頻度になるだろう。俺なら仮病を使う。 半分を過ぎた頃だろうか。あ、と小さく声が漏れた。顔は覚えていなかったが、先程目が合ったのは多分この子だ。長髪ばかりの中、1人だけ俺と同じ肩につくくらいの髪の長さ。歳はまだ10代だろうあどけなさが残っている。綺麗なブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。背はこの中では低め、俺と同じくらいか。女の子か男の子か判断がつかない中性的な顔立ちをしている。 紹介が終わりお互い頭を上げる。意志の強そうな瞳と合うと、また少し目が離せなかった。すぐに先程の失態を思い出して、急いで籠に手を入れる。そうだ、失礼な事をしてしまったしこの子に黒い花を渡そう。間違えて入っていたのかもしれないが、造花なら枯れないしちょっと特別感もあっていいだろうと思ったのだ。嫌だったら後で他の人と交換なりするだろう。 黒い花を手にとってみると意外にも凝った作りだった。本物の花に寄せているようで装飾品に近い、花の1枚1枚に丁寧に刺繍がしてあって女の子ならそのままブローチにできそうだ。 男の子だったらごめん、と思いつつ少しだけ笑いかけながら花を差し出した。 すぐに受け取ってくれると思ったのに、花が手から離れていかない。あれ、やっぱりやらかしたかと思ってみると、先程の子が口を小さく開けたまま固まっている。

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