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第28話
やらかしたな。心の中でルートに謝りながら手を引っ込めようかと迷っていると、ゆっくりと手の中のものが消えていった。良かった、受け取ってくれたようだ。
彼女(彼?)はまだ信じられないという顔で花を見つめていた。そんなに嬉しかったのか?もしくは嫌過ぎて逆にショックを受けているのか。
でももう会う事もないだろうから、真相は闇の中だ。さて次の人に...というところで急にあちこちから泣き声をやら叫び声がした。あんなに静まり返っていたのが嘘のような騒ぎになり、混乱する。神父の格好をした人がみんなを静めてくれて、俺はようやく残りの人達にも花を配り終えた。しかし後半の人は泣いていたり心ここにあらずという人もいて、なんだか申し訳なかった。
配り終えた後はまた阿鼻叫喚に戻ってしまい、俺は何を仕出かしたのかと震えあがる。
騒動の中、ルートが駆け寄ってきてくれた。
「あの、ごめんせっかく」
「兎に角ここから出よう」
「でも皆さんに」
「後は兄さん達に任せるから、大丈夫だよ」
逃げるように部屋から出るとケネスがいた。
壁にもたれていた体を起こすと「で、どうだったんだ」とニヤニヤしながら聞いてきた。
「それが凄い騒ぎで」
「おーおーそりゃそうだろうな」
ガハハと笑いながら頭を軽く叩かれる。ケネス!と咎める声が隣から聞こえた。
部屋に戻ると動きやすい服に着替えて一息つく。大失態をしてしまったようだが今はただ終わった事が嬉しい。今度からルートに頼まれた事はちゃんと話を聞いてから承諾したほうが良さそうだ。
「お疲れ様。大丈夫だった?」
「うん、色々と驚いたけど。ルートって兄弟多いんだな」
「従兄弟もいたけどほとんど異母兄弟だから」
「へぇ、これだけ多いと遊び相手に困らなさそうだ」
「あはは、まあね。ミトは兄弟は?」
「弟がひとり」
「仲はいいの?ミトに似てる?」
「うーん、似てはないかな。仲はあんまり...ってそんな事より!さっきは本当にごめん。せっかく呼んでくれたのに、俺が変なことしたばっかりにあんな騒ぎに」
「まぁお前のせいといえばお前のせいだな」
横からケネスが口を挟む。俺は頭を抱えた。
「違うんだミト。あれは...まぁちょっと驚きはしたけど決してミトのせいじゃないよ」
「でもどうしてみんな」
ルートは少し考えて、口を開いた。
「実は、次期国王が決まったんだ」
「ええ!?それは凄い。おめでとう!」
それはみんな騒ぐよな。日本と違って上が数年でころころ変わらないだろうから、王様が変わるのは国民にとっては一大事だろう。しかし思い返してみると、あの雰囲気からして喜んでる様子ではなかったような。
「じゃあ俺を家族に紹介なんてしてる場合じゃなかったんじゃないか」
どう考えてもタイミングが悪すぎる。俺が家族なら空気を読め!と追い返してる。
「そんな事ないさ。何よりも大切な事だったんだよ。本当にありがとう、ミト」
ルートはなんだか嬉しそうだった。よくわからないが、ルートを怒らせていなくて安心した。
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