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第29話

ールート視点— 「信じられないわ!」 「確実にエドウェル様が選ばれると」 「よりによってあのお方とは」 「それはオーズ様のご判断を疑うという事か」 ミトと別れ、神殿にもどるとそのまま賢人会議が行われていた。会議といってもみな動揺し場所を移す余裕もないところを見ると、話は全く進んでないようだ。 無理もない。王なき国をこれまで支えていたのは兄エドウィルだ。妻ナンシェルも献身的で、後継ぎ候補にもなる子供もいる。民や貴族たちからの信頼も厚い。 実際にエドウィルの即位は秒読みで、宮廷の中では密かに準備を進めている段階であったのだ。そんな中、モシェに見慣れぬ植物が現れたと神官から報告がありオーズが現れる予兆だとお祭り騒ぎになった。オーズが現れるなら彼(彼女)に選んでいただくしきたりに従い、即位は延期に。皆エドウィルが選ばれると信じて疑わなかったため、お祝い事が2倍になると喜んだ。 しかしモシェの花が咲ききってもオーズらしき人物は現れず、兄の即位どころではなくなってしまった。そして1年余りかけて大捜索の末、ようやく見つけたオーズは皆の想像を裏切り候補者の中でも問題児といわれているユーイアンを選んだ。納得できない者が多いのもうなずける。 本来ならば候補者は正妻か側室の間に生まれた子供から選ばれるが、ユーイアンはそれとは違った。彼は前王がお忍びで城下町を訪れた時に出会った平民との子供だ。彼の母親は街に住み続けることを選び、彼自身も城下町で育った。宮廷は彼を歓迎せずほとんど野放しだったが王の血が入っていることは無視しきれず、10歳を境に正式に宮廷に籍を置き英才教育を受けるようになった。しかし宮廷の生活は合わないようで頻繁に抜け出しては老師達を困らせていた。王族としての自覚が無く、何物にも捕らわれない彼を誰もが持て余していた。ただ変わり者と呼ばれている僕とは馬が合い、時たま家に遊びにきて子供たちと戯れる事もあった。 内心、僕はオーズの選択に歓喜していた。世界中の本を読み漁っている僕でも彼の思考や発想力には驚かされる事がある。ただ生まれが違うというだけではない、彼自身が聡明なのだ。兄エドィルには申し訳ないが、ユーイアンが治める国をみてみたい。楽しみにしている自分がいる。もちろん彼はまだ若く未熟だが、我々が間違わず導けばよき国になるだろう。

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