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第32話
ユーイ視点ー
それは偶然だった。
窮屈な宮殿を抜け出して、友人たちと過ごして母と夕食をとった日。寝るためだけに戻る途中。慣れた抜け道を通り、いくつかめの柵を越えるのに近道しようと木に足をかけていた時。いつも閉まっているガラス扉が開いているのに気づいた。自然とそちらへ目が向かい、それをとらえた。
暗闇の中でもわかる。漆黒の髪。
黒の服を身にまとえるのはその人だけ。
その口から音がこぼれる。
酷く寂しく、消えてしまいそうな響きだった。
顔は見えない、名前も知らない。
その人を手放してはならないと本能が騒いだ。
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