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第33話
「ユーイ!来てくれたんだ」
俺の姿を見た途端、その人はパッと笑顔を見せた。
「ああ。街でミッツェを貰ったからお裾分け」
本当は買ってきたものだけどそう言うと彼は遠慮して申し訳なさそうにするので、貰ったと伝える事にしている。
「ありがとう。これ好きなんだ。一緒に食べよう」
俺の手から笑顔で受け取るとお皿に並べていく。
「それで、今日はどんな話をしてくれるの?」
彼は前のめりになり待ちきれないと言わんばかりに見つめてくる。俺は少し頬のあたりに熱が集まるのを自覚しながら、その期待に応えようと口を開いた。
俺が夜な夜な隠密に彼の元を訪ねるようになってしばらく経つ。
オーズについてはもちろん歴史を学ぶ上で切り離せない存在なので知識としては知っていた。この国の人々が信仰し、神聖なものとして崇めているのも知っている。しかし俺は疑うとまではいかずとも、人々のように盲目的にはなれなかった。
母との生活に不満をもったことはないが、街での生活は楽ではない。俺が多少なりとも働けるようになるまでは母に苦労をかけた。突然王宮に連れられた時は父親や王位継承権の話よりも、贅の限りを尽くした内装に憤慨した。王都はそこまでではないが、生活に喘ぐ人々は多い。当時の王に現状を覆す力はない。オーズ様がいればと口にするものもいたが、俺はそこまで楽観視できなかった。この国で生まれ育った者たちでさえ頭を抱えているというのに、未知の世界から来たものにどうにかできるとは信じがたかった。
数年後、オーズが現れたと聞いた時は耳を疑った。
そして選定の儀で彼を目にした時は、半信半疑だった身体に稲妻が落ちたような感覚になった。言葉ではとてもじゃないが言い表せない。湧き出るような喜びと、神々しいほどの佇まいに思わず平伏してしまいそうになるのを必死で抑えた。なるほど、その存在はまことであった。
最初は問いただすつもりで訪れた。なぜ兄上ではなく俺を選んだのか。政治や王位継承など興味ない。煩わしいので遠ざかりたいくらいだ。もちろん問う事は諦めていないが、ずっとタイミングを逃してしまっている。
突然現れた俺をみとよは快く招き入れ、他愛もない話をした。どうやら俺をルートの従兄弟としか思っていないようで、俺自身の事や街の事などを聞きたがった。オーズは思ったより人間臭く気さくで、良い意味で普通だった。鼻にかけるわけでもなく、どちらかというと自身を卑下するきらいがある。
軟禁状態で人恋しいのか、去り際に寂しそうな顔をするものだから「また来る」と口をついて出ていた。すると花が開いたように顔を綻ばせるものだから、行かないわけにはいかない。そんな言い訳をしたが、彼に会うたびに胸が高鳴るものだから俺もまんざらではない。
看守がいるため2人きりとはいかないが、この穏やかな時間が純粋に好ましい。この部屋から外はしがらみが多い。そのしがらみを増やした元凶は彼だが、それ以上に救われている事を自覚している。この部屋から一日も早く出してやりたいが、この時間が終わってしまうのが口惜しいとも思う。その時は今の関係のままではいられないのだから。
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