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第34話
ーみとよ視点―
「はげた、絶対はげた」
ようやくあの部屋から解放された俺は、即座に鏡に向かった。
ルートが来てくれるたびに後頭部を見てもらってはいたが、ルートの大丈夫は信用ならない事を学んだ。やっぱり自然に抜けるのと抜かれるのでは気持ちが違うよな。
うう、と心の中で泣く。しかしこれで俺の毛にも平穏が訪れたわけだ。それは素直に喜ばしい。今度の部屋が今まで以上に豪華になっているのが引っかかるが。
部屋といえば急に移ることになったため、ユーイにそのことを伝えられていないのも気がかりだ。周りの人に伝えようにも、ユーイから秘密にするように言われている。
ルートの家族に挨拶した時、黒い花を渡した人物はどうやら男の子だったようだ。あの息が詰まる部屋で、不安を抱えながら過ごしていた数か月。夜は特に悪い事ばかり考えてしまうため、彼が来てくれた日はどれほど救われたか。
「なんとか、大丈夫そうだ」
胸をなでおろしたところで、クククッと笑い声が聞こえた。
「お前、そんなこと気にしていたのか」
「・・・ケネスさん」
「大事な御髪だもんなぁ」
そういって俺の髪の毛先を軽く引っ張る。
「ルードヴィクも要領が悪いな。おかげで予定が全部パア、儀典長もご立腹だ」
「ルートを悪く言わないでください」
「はっ、なんにもわかってないクセによく言う」
・・・何も言い返せない。
「お前にも責任はあるがな」
「それはどういう」
「俺の口からは言えねえ。お坊ちゃんか、新王にでもきいてみろ」
ポンと頭に軽い衝撃があり、離れていく気配がする。
「新王と言えば、お前もこれから大変だな」
振り向くとケネスがニヤニヤしながら壁にもたれている。
こちらに来てから気が休まることはなかった気がするが、まだ何かあるというのか。
怪訝な顔をしていると、手を取られて部屋の外に連れ出された。
「これ、わかるか」
扉の前に立たされ、その模様を見上げる。初めて見るが、鷲のような鳥が羽を大きく広げている。左右に頭を振ると、もう一つ奥側の部屋の前に連れてこられる。ほぼ同じ模様だが、鳥の頭の向きが逆だ。
「ウーラン、国鳥だ。それくらい知っておけ。この鳥の装飾は王族の中でも限られた人物しか使用できない」
「王様?」
「流石にわかるか。この頭が右を向いているのが国王の部屋だ。そしてその対になっている部屋が、お前がさっきまでいた部屋だ」
「・・・!?」
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