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第37話
ルート視点ー
ユーイアンはあの日から嘘のように勤勉になり、王宮から抜け出すこともなくなった。避けていた王室や貴族たちとの関わりも密に取るようになり、そうすると彼の聡明さに周りが少しずつ気づき始めた。ミトの疑いも晴れたことで皆も新王を認めざる負えなくなるだろう。
国が大きく変わる。ユーイアンとミト、彼らを傍で支えられる事に喜びを感じていた。
支えられるだけでいいと思っていた。
新王はオーズを伴侶に選んだ。
正式にはまだだが彼がそのつもりなのは周知されている。歴代のオーズもその多くは王と結ばれ、言い伝えでも王とオーズの結びつきはより国の繁栄が続くと言われている。オーズが現れた時に既に伴侶がいる場合もあるためもちろん強制ではないが、やはり望ましい事ではある。
ミトが望まないなら話は別だが、僕は応援するつもりだった。
ミトがモシェに行ったと聞いて嫌な予感がした。
こちらの都合で立て続けに振り回している自覚があった。
ミトは大丈夫と言うが、王都に連れてきてから子供達にみせていたような笑顔を一度も見ていない。オーズが元の世界に戻った記録はない。しかしその可能性がないと言い切れない以上、何が起こるかわからない。今、この国には彼が必要だ。ようやく手に入れたこの国の希望を失うわけにはいかない。
彼は仰向けに水の中に浮かんでいた。天井からの光が水で濡れた彼と水面に反射して輝いている。向こう側の世界の植物に囲まれてあちら側を想っているであろう彼は、そのまま消え入りそうなほど美しかった。
気がつくと彼を行かせまいと縋っていた。
彼を失う恐怖で、冷静でいられなかった。
自身だって余裕なんてないだろうに、こちらを気遣うように微笑んで触れてくるものだから、見てみぬ振りをしていたものがあふれ出した。
国も、王も、民も、そして自分の立場も忘れて彼に口づけをしていた。
あれ、僕は、何をして
パッと体を離すと大きく見開いた黒い目と合う。
戸惑った表情のミトをみて冷静になるのと同時に羞恥に耐えられなり、再び彼を抱きしめる。
そうだ、国のためじゃない。僕自身が彼をー
「あの、ルート」
困惑した声がかかる。
「もう少しだけ」
王は彼を選んだが、彼はまだ選択していない。
どちらにしてもこの想いを知られるわけにはいかないが、今はただ。
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