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2-S
「何突っ立ってキョロキョロしてんだ?」
「!!」
後ろから声をかける俺とその声にびっくりする藤。
只今、午後4時48分。
そんなびっくりしなくても。
大きな声出したつもりはないんだが。
「とりあえず座れよ」
「う、うん」
いまだに立っている藤に、座るよう促す……が、
「何で正座?」
緊張しすぎだろ。
「何となく?」
だから、そんな顔で見るなよ。
「足崩していいよ」
思わずドキッとして、トレー落としそうになるだろ。
「キッチン探したけど、チョコとクッキーぐらいしかしなかったわ」
藤は、俺が持ってきてたチョコの箱を見て、
「いやいや、逆にこないだウチに来たとき、全然オシャレおやつじゃなくて、申し訳だよ」
真っ赤になって、謝りだした。
「オシャレおやつって何だよ」
よく分からない慌て様の藤に笑ってしまう。
「さ、佐久間は、普段から紅茶飲むの?」
ポットの紅茶をカップに注いでいると、藤が話しかけてきた。
「うーん、割とよく飲むかな。母親が紅茶好きだから」
「な、何か、本格的だね」
藤が、俺の動きをジッと見ているのが分かる。
「そうかー?あ、ミルクがなくて悪いけど、砂糖はどうする?」
「一つお願いします」
「はい、どうぞ」
ティーカップを藤の前に置く。
「い、いただきます」
藤は、カップを口にもっていき、一度スンっと紅茶の香りを嗅いで口をつけた。
「わぁ、美味しい!」
「そりゃ良かった」
思わずといった様子で"美味しい"と言った藤に、つい顔がほころぶ。
そんな藤を見て、俺も紅茶を口にする。
はぁ、落ち着く。
「ちょ、チョコもらうね」
そう言って、チョコの箱に手を伸ばした藤。
藤が持っただけで、簡単に溶け出したチョコ。
慌ててチョコを口に入れる藤。
そして、自分の指についチョコを…、
ペロリ。
その仕草に、藤の家に泊まった日の夜を思い出す。
紅茶なんかじゃ落ち着かねぇよ。
俺の部屋 でふと見せる、オマエの表情や何気ない仕草に、紅茶なんかで落ち着けるはずがねぇんだよ。
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