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4-F
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「え、泊まっていかねーの?」
「へっ?!」
おいとましようとした俺に、泊まるの前提のような口ぶりで返してきた佐久間。
只今、午後6時40分。
えーっと、確かに、こないだ、お泊まりの話があったけど…。
それが本日とは…、聞いておりませぬ。
「もう外も暗くてあぶねーから、泊まってけば」
「で、でも、お家の方が…」
「二人とも今日は仕事で帰ってこねーから、気にしなくても大丈夫だよ」
「えーっと、そのー…」
「あ、夕飯の心配か?さっき冷蔵庫みたとき、割と食材あったから適当に何か作るわ」
「そ、そうじゃなくて…」
「分かった、なっちゃんが心配か!でも、今日はエリカさん休みなんだろ?たまには、母娘で過ごさせてやれよ」
「……分かった。お母さんにラインしとく」
帰る隙を与えない佐久間に、折れるしかなかった。
「藤、飯が先でいいか?」
「あ、うん」
とりあえず、リビングに移動したのだが…、これまたオシャンティ!
やはりここにも観葉植物。壁には抽象画。要所要所に間接証明。
オシャレベルの格が違いすぎる…。
「何かリクエストとかある?」
カウンターキッチン越しの佐久間に、ドキッとする。
「な、何でもいいよ?」
「何でもが一番困るんだよ」
と言いながら全然困った顔をしていない。
逆に、柔らかい笑顔の佐久間に、またまたドキッ。
「んー、簡単なパスタにするか」
そう言って、佐久間はお鍋に水をいれ火にかけた。
「何か手伝うことある?」
「じゃ、そこのレタスとプチトマト洗ってもらってい?」
「はーい」
こないだウチに来たときのことを思い出し、ちょっとソワソワしながら佐久間に近づいた。
「何パスタ?」
佐久間の手元を覗き込みながら聞いてみた。
「ん、アーリオオーリオ」
「あー、あーりお?」
「えーっと、ペペロンチーノのことな」
手元を見ていた顔をあげ、小ばかにしたように笑ってこっちを向いた佐久間。
ち、ち、近い!
「何そのオシャレな言い方!」
慌てて離れてしまったが、変に思われなかっただろうか。
「気どっちゃって」
誤魔化すように、茶化す俺。
「俺ん家は、昔っからアーリオオーリオなんだよ」
そんな俺の事なんか気にせず、佐久間はクスっと笑って再び料理を再開した。
俺ん家のキッチンで見たときのように、テキパキ動く佐久間。
ちょっと鼻歌まじり?本人それに気づいてない?
「へへっ」
だから、つい笑ってしまうのも仕方がないでしょう。
だって、楽しそうに料理するキミが、堪らなくかわいんだから。
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