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4-S
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「え、泊まっていかねーの?」
「へっ?!」
さらっと帰ろうとする藤に、泊まるの前提な返答をした俺。
只今、午後6時40分。
また、コソ泥みたいに帰ろうとしてんなぁ、オイ。
「もう外も暗くてあぶねーから、泊まってけば」
このご時世、夜道は男女関係なくあぶねーからな。
「で、でも、お家の方が…」
「二人とも今日は仕事で帰ってこねーから、気にしなくても大丈夫だよ」
藤にとっては、俺ん家の方があぶねーか。
「えーっと、そのー…」
「あ、夕飯の心配か?さっき冷蔵庫みたとき、割と食材あったから適当に何か作るわ」
胃袋掴む気満々だけど。
「そ、そうじゃなくて…」
「分かった、なっちゃんが心配か!でも、今日はエリカさん休みなんだろ?たまには、母娘で過ごさせてやれよ」
で、オマエは俺と過ごす。
「……分かった。お母さんにラインしとく」
そんな渋々な顔されると、結構落ち込むんだけどー。
「藤、飯が先でいいか?」
「あ、うん」
とりあえず、リビングに移動したが…。
だから、キョロキョロしすぎなんだよ。
そんなに気になるなら、"三島藤の建物探訪"するか?
「何かリクエストとかある?」
「な、何でもいいよ?」
「何でもが一番困るんだよ」
何だ、その模範解答。
でも、藤のそのナチュラルな感じは、悪くないな。
「んー、簡単なパスタにするか」
「何か手伝うことある?」
ダイニングから、ひょっこり顔をのぞかす藤。
「じゃ、そこのレタスとプチトマト洗ってもらってい?」
「はーい」
藤の間延びした可愛らしい返事に、何とも言えない気持ちになる。
「何パスタ?」
ひよこのように、ちょこちょこと近寄ってきた。
オマエ、それは確信犯だろ?
「ん、アーリオオーリオ」
「あー、あーりお?」
「えーっと、ペペロンチーノのことな」
手元を見ていた顔をあげ、代わりに藤を見る。
思ったより近いな。
「何そのオシャレな言い方!」
そう思ったのは俺だけではないようで、慌てて離れた藤。
「気どっちゃって」
その顔は、藤が洗ったプチトマトのようだ。
「俺ん家は、昔っからアーリオオーリオなんだよ」
そういうのは自覚がないんだろうなぁ。
ったく、人の気も知らねーくせに。
ホント、俺の心をくすぐるポイントを熟知してるよ。無自覚で。
「へへっ」
笑い声の方を向くと、少しだらしない笑顔の藤。
「笑ってねーで、皿にサラダ盛り付けろ」
いや、違うか。
「はーい」
藤だから、何をしても可愛いと思ってしまうのか。
好きだから、何もかもを、俺の中だけで可愛がりたいと思うのか。
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