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5-S
「いただきまーす」
「いただきます」
手を合わせて、食事の挨拶をする俺たち。
只今、午後7時17分。
目をキラキラさせてパスタを見ている藤…、子どもか。
ダイニングテーブルに向い合せで座った俺達。
目で堪能し終わったのか、藤は、パスタをフォークに巻いて、口に入れた。
「うん、美味しっ!」
多めに入れたオリーブオイルが、藤の唇をテラテラと強調させる。
「にんにくあんま使わない代わりに、玉ねぎ多めに入れたからどうかと思ったけど」
「ううん。玉ねぎが甘くて、すっごく美味し!」
「ありがと」
無邪気に笑う藤に、もう一人の自分を押さえ込んで見つめる。
「と、ところで、ご両親がお仕事って言ってたけど、何のお仕事してんの?」
「父さんはパイロット。母さんは元CAで、今はそれ系の専門学校の講師」
「えっ、パイロットって…、もしかしなくても国際線?」
「ああ」
「お父さんがパイロットとか…、いいなぁ。俺だったら、絶対自慢する!」
「そうか。家だとフツーのおっさんだよ」
「あ、写真とかないの?」
「あー、まーあるけど…」
「後で見せて!」
「んー後でな」
話に出てきたぐらいで、父さんに嫉妬とか…。
俺の方が、よっぽど子どもだわ。
「出来れば、制服と飛行機がセットのやつ!」
「だいぶ限定的だな」
「えー、だって、パイロットの制服カッコイイじゃん!空港でみる、小脇に帽子を抱え、コロ引っ張りながら颯爽と歩くパイロット…。男の子の憧れだよ!」
「へいへい」
そんなにパイロットがいいかねぇ。
「佐久間はお父さんみて、パイロットになりたいとか思わないの?」
「考えたことねーな」
「…へへ」
「何、ニヤニヤしてる」
もし、父さんと会いたいって言っても、会わせねーからな。
「いやぁ~、佐久間のパイロット姿想像したら、ちょーカッコいいなぁと思って」
「……」
屈託の無い笑顔で、そんなこと言うなよ、……照れるわ。
「それに、佐久間優しいから、きっと子ども達の憧れの的になるよ!」
「……」
遠回しに俺のこと褒めてるって、気づいてないのか?
ってか、そう思ってんのか?
だったら、すげー嬉しい。
「佐久間?」
やべー、ニヤける。
そんな顔を見られたくなくって、慌てて口元を手で押さえて、横を向いた。
「何でもねーよ」
そう言いつつも、藤が気になり横目でみる。
そこには、麗しの気まぐれ猫が、尾っぽ大きく揺らしていた。
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