12 / 31
6-S
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
手を合わせて食事の終わりの挨拶をする俺と藤。
只今、午後8時12分。
腹をポンポンと両手でたたく藤。
胃袋はがっちり掴めたようだ。
カチャカチャと器を寄せて立ち上がる藤。
「藤、そのままでいいよ。後片付けはしとくから」
俺は、藤が寄せた器をヒョイと持ち上げた。
「それより、先風呂入って」
俺がそう言うと、
「……」
若干、固まった藤。
「バスルームにある入浴剤とか勝手に使っていいからな」
「……」
緊張してんなぁ。
「あ、着替えはあとから持ってくから、今着てる服も洗濯機ん中いれといて。後で回すから」
「…はい」
逆に、俺は、ちょっと楽しみなんだからな。
軽く水洗いした食器を食洗機に入れる。
「あとは…」
藤の着替えの用意。
「ヨシッ」
逸る気持ちを抑えつつ自室へ。
「確か、結局履かなかったのがあったよな」
クローゼットを探ると、
「…あった、あった」
中3で急に成長期をむかえ、入らなくなった未使用のボクサー。
俺の下着というのも捨てがたいが、体格が違いすぎる。
デカいサイズは、履く方としては落ち着かないだろう。
「あとは…」
寝間着なんだが、俺はスエット派。
一瞬、父さんのパジャマが頭をよぎったが、すぐさま却下。
まぁ、ぶかぶかな俺のスエットを着た藤もいいかもしれない。
揃えた着替えを持って、バスルームに向かう。
「ふう…」
洗面所の入り口でため息ひとつ。
音を立てないように、ゆっくりと扉を開ける。
――シャーーーーー――
"落ち着け!"と自分に言い聞かせながら、シャワーの音がする方を向く……が、湯気でよく見えね!
洗面所の棚からバスタオルを取り出し、ゆっくりバスルームに近づく。
――キュッキュッ――
カランを締める音。
まだ、俺に気づかない藤。
雫の落ちる髪を両手でかき上げる。
くるくるの天パが後ろに撫でつけられ、火照った愛らしい顔がしっかり見える。
湯気から垣間見える、白い細身の濡れた身体。
ゴクリと唾を吞む。
そして、上半身から目を下に落とそうとしたとき、
「…へへっ」
藤の笑い声にドキッとした。
覗き見、いや、がっつり見がバレたのかと思い藤の顔を見た……が、やはり気付いてない。
いつものだらしない顔で笑っていた。
その顔を見ると、すこし落ち着いた。
――コンコン――
ガラスをノックすると、
「さ、佐久間!?」
バッと藤がこっちを向いた。
「…着替えとタオル、ここに置いとくから」
なるべく目線を落とさないようにする。
「あ、う、うん。ありがと…」
サッと目を逸らした藤。
白い肌が、みるみる赤くなる。
「……」
「……」
その反応はやめろ!
また、落ち着かなくなる!
「…じゃ、しっかり温まって出ろよ」
少しの変化も悟られないように、洗面所から出た。
「…ヤバい」
思わずバスルームに入りそうになった。
バスルームに入って、驚く藤を、そのまま……。
そう、俺はそのまま、トイレに駆け込んだ。
ともだちにシェアしよう!