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第8話

「あ、雅実だ!」 窓際の席から外を見ると、ちょうど雅実のクラスがサッカーをしていた。 生物の先生が風邪をひき、急きょ自習になった俺のクラス。 一応プリントが配られたものの、隣のクラスにバレない程度に各々自由にしていた。 「ホント、雅実君のこと直ぐ見つけるよねー」 前の席に座るももチャンは、椅子の向きを後ろにして、俺と一緒に外でサッカーに励む雅実のクラスを眺めていた。 「……あのさ、ももチャン」 「んー、なにー?」 「最近さー」 「んー」 「雅実の様子がおかしいんだよねー」 「んー?」 「ソワソワしてるというかー、落ち着きがないというかー」 「そおー?朝会ったときは、いつもの雅実君だったけどねー」 「んー……、それがさー」 「んー」 「"寺島晶"って知ってる?」 「うん、剣道部の子でしょ?」 「そうそう。そいつが、雅実と同じクラスでさー。仲良くしてるみたいなんだけどー」 「んー、良かったじゃん」 「うん、それは良いんだけどー」 「んー?」 「そいつといるときさー、いっつもきょどってるんだよねー、雅実」 「きょどるー?」 「そう。あー、あんな感じ」 ももチャンに、雅実が寺島と一緒いるとき様子がおかしいことを話していると、ちょうど選手交代した雅実と寺島がじゃれてる光景が目に入った。 がっつり肩を組んで笑顔で話しかけてる寺島に対し、雅実はオドオドワタワタしていた。 「元々さー、雅実、あんな感じで友達と付き合うことなかったからさー。慣れてないだけかもなんだけどさー」 「……」 「フツーに話してるときもさー、あんま目を合わせようとしてないんだよねー、寺島と」 「……」 「いじめられてんのかなーとか思ったんだけど、そんな感じでもないしー」 「……」 「雅実も、きょどりながらもよく一緒にいるみたいだし……って、ももチャン聞いてる?」 真横からの返答がないことを不思議に思い、グラウンドから目線を正面に向けると、そこには窓の外を真剣に凝視するももチャンがいた。 「ももチャン?」 思わず声をかけると、 「……それは…よ」 ぼそりと何かを呟いたももチャン。 「ん?ももチャン?」 よく聞こえなかったので再度声をかけると、ももチャンは俺の方を向き、ガバッと俺の両手を掴んで、キラキラ、いや、ギラギラと目を輝かせて言った。 「そう!それは恋よ!」

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