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第9話

「こい?」 「そう、恋!雅実君は、寺島君に恋してるのよ!」 俺が疑問系でオウム返しをすると、ももチャンは勢いもそのままに、熱く主張してきた。 「でも、ももチャン。雅実も寺島も男だよ」 「恋に男も女も関係ない!雅人は、そういう差別するの!?」 「いやいや、差別はしないけどさー。雅実だよ?恋愛とか興味なさそうだし」 「何言ってんの、恋はするものじゃなくて堕ちるものよ!雅実君は、今!まさに!深い深い恋の坩堝(るつぼ)に堕ちてる最中なのよ!!」 「は、はぁー……」 初めて見る彼女のよく分からない熱意に、若干引き気味な俺。 そんな俺をよそに、なおも生き生きと話すももチャン。 「大体、雅実君に今まで彼女がいなかったってことが不思議だったのよ」 「そお?」 「そおよ!だって雅実君、男前で性格も良くて、そして高身長!若い女が放っておくはずないじゃん!」 「若い女って…」 「でもそれは、この恋のためだったのよ、きっと!」 「ももチャン?」 「今まで恋というものを知らなかった男の子が、性別を超えた恋に堕ちる。戸惑いと不安、そして葛藤を抱えながらも、自分の本当の気持ちに気付く」 「もーもチャン」 「でも、実際に好きな相手を前にすると、どうしても素直になれない。互いに傷つけ合いながらも、ふたりの距離は縮まっていく」 「おーい、もーも」 「そしてたどり着く……、儚くも美しい究極の愛に!」 「ダメだこりゃ」 完全に別世界へ旅立っている彼女を連れ戻すのは不可能だと思った俺は、再度グラウンドに目をやった。 そこには、コートの外でパス練をしてる雅実。 もちろん、相手は寺島。 きょどりながらも楽しそうにしている雅実。 もちろん、楽しそうな寺島。 「雅実が、恋か……」 別世界を満喫しているももチャンを横目に、あながち彼女が言ってることも間違いじゃないかも?、とか思った俺なのでした。 ******************

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