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第20話

「…はよぉ……」 「え、雅人?おはよう。今日は早いな」 「ん"ー」 いつも寝坊助な俺が、早起きしてきた事にびっくりしている雅実。 「今日は雨かな?」 雅実が笑いながらキッチンから顔を出す。 「ん"ー…ごはん」 「ハイハイ。今よそうから座ってて」 「うん」 朝からテキパキ動く雅実を見つめる。 昨日は、なかなか寝付けなかった。 雅実の恋を応援するって決めたけど……、思ってた以上にショックだったんだ、やっぱり。 俺の大好物を、別の誰かを思って作る雅実を見て。 あんな顔してる雅実初めて見た。 見た目は、ちょっと怖がられる外国人顔。 表情はその反対で、いつも優しい。 その中でも、弟の俺には甘い顔。 俺だけは特別。 そう思ってた。 でも、俺に見せてた甘いとは違う、甘い顔をした雅実。 何が違うって、雅実が可愛いかったんだ。 俺のときはただ甘いだけ。 それ以上でもそれ以下でもない。 でも、昨日、トンカツを揚げてたときの雅実は、甘いだけじゃなくて、可愛いかった。 きっと、これは俺にしか分からない。 ずーっと一緒だった俺にしか分からない、雅実の変化。 「…どうした、雅人」 いつの間にか、俺の前には朝ごはんが用意されてた。 そして、俺の対面に座った雅実が、心配そうに俺の顔を見る。 「ん、何が?」 何に心配されてるのか分からなくて聞き返す。 「雅人、泣きそうな顔してるから」 「え?」 「雅人が珍しく早起きしたかと思ったら、泣きそうな顔してボーっとしてるから」 「俺、そんな顔してる?」 「うん。してる」 ニッコリ笑って手を合わせ、小さな声で"いただきます"と言って、ご飯を食べ始めた雅実。 「俺もさ、雅人の言うように、双子の以心伝心は信じてないけどさ」 "ん、何の事?"と思ったが、すぐに初めて寺島に会った時に話してたことを思い出した。 『へー。じゃあ、双子でよくある"もう一人の感覚が分かる"的なことはないんだ』 『ないない。全くない。俺的には、あんなの一卵性でも疑わしいって思ってるよ』 あの時、雅実テンパってたけど、ちゃんと聞いてたんだ。 「いつも一緒にいるから、他人が分からない変化でも、俺には分かるよ」 「……雅実」 そうだよな。 俺がお前をずっと見てきたように、お前も俺のことずっと見てたんだよな。 そして、それはこれからも、変わんないんだよな。 「さ、世界一美味い料理を用意したから、食べよ?」 「うん!」 笑顔で"いただきます"と言った俺に、雅実はそれ以上深くは聞いてこなかった。 その後、あとから起きてきた母さんに『雨が降るから、折りたたみ持っていきなさい!』と言われ、雅実と顔を見合わせ、思わず笑って家を出た。 もちろん、大きなお弁当箱も忘れずに。

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