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第37話
「て、寺島。俺、じ、自分で出来るから……」
「雅実、右利きだろ?俺が書くから。あ、処置もするから、ちょっと書き終わるまで待ってて!」
どうやら体育の授業で雅実が右手を怪我したらしい。
寺島がかいがいしく雅実の世話をしている。
「ハイ、そこ座る」
「は、はい……」
勝手知ってたるや、棚から処置の道具を取り出す寺島。
雅実の右手を取ってテキパキと処置をしていく。
折角の二人っきり。
頭痛もあるし、ここは見守るか。
――チクタクチクタク……――
静かな保健室に時計の音が響く。
「……寺島の手、白いな」
沈黙に耐えきれなくなったのか、雅実が処置している寺島の手を見ながら話しかけた。
「室内の部活だからな」
軽く笑いながら処置を続ける寺島。
「……雅人みたい」
一瞬、寺島の動きが止まった。
「あ、でも雅人みたいに小さくわないな。雅人の手、女子みたいでさ。白くて、小さくて、柔らくて」
ゆっくりと動き出した寺島の手を見たまま、クスッと笑いながら話す雅実。
「でも、それ言うと雅人怒るんだ。気持ち良くて可愛い手なのに」
うん、俺、怒ってるゾ。
「……じゃない」
処置を終えた寺島が、ボソリと何か呟いた。
「ん?」
雅実も聞こえなかったのか、顔を上げた。
「俺は、雅人じゃない」
寺島がそう言った、次の瞬間。
俺は慌て左手で口元を押さえた。
自分の驚きの声が漏れ出ないように。
チュ…。
「雅人じゃないから…」
雅実とのゼロだった距離をゆっくりと離していく寺島。
「俺は、雅実に、こういうことする」
静寂の中で、授業の終了を告げるチャイムが、遠くで聞こえた。
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