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第39話

****************** チャイムが鳴って数分間、時間が止まっていた。 少し離れた場所からでも見てとれる。 寺島が、真剣な目で雅実を見ていることが。 方や、雅実は固まったまま。 寺島の行為によってなのか、真剣な眼差しによってなのか。 ただ、固まったまま。 ――ザワザワ……―― 廊下が賑わいだした。 すると、雅実のクラスメイト数人が保健室に入ってきた。 「まさみん、大丈夫?」 「ごめん、俺が変なところに投げたから」 「動かせる?」 次々とクラスメイトに話しかけられ、固まっていた雅実は、我に帰ってワタワタと慌てる。 雅実を取り囲むクラスメイト。 そのどさくさに紛れて、寺島は、雅実に何も言わずに保健室を出ていった。 残され雅実は、それに気付かずクラスメイトの返答に対応している。 雅実は寺島が好き。 寺島も雅実が好き。 じゃあ、さっきのは? 何の前触れもなく起こった出来事。 雅実と同じ、俺も固まったまま。 こんなときにはシンクロするんだな、俺たち。 二人は、好きな者同士。"恋愛"的意味で。 けど、お互いそれを知らない。 もしかしたら、雅実は自分の気持ちにすら気づいてないかもしれない。 だって男同士。 そう簡単に"恋愛"という気持ちに結びつかないだろ? 肩を組むことはあっても、手を繋ぐことはない。 ときめくことはあっても、熱に変わることはない。 触れ合うことはあっても、溶け合うことはない。 好き同士だけど、男同士。 だから、だろうか? どこかで思ってた。 男同士に偏見はない。 けど、男同士だ。 親友の域を出ない。 "爽やかな青春の延長" そんな気持ちで二人を見てた。 でも、さっきの寺島を見て、それが大間違いだと思い知らされた。 それが偏見だと。 ただ触れただけ。 ただ触れただけなのに、その意味が凄く大きくて。 ただ見てるだけ。 ただ見てるだけなのに、二人の関係は変わって。 雅実と寺島は、完全に友達じゃなくなった。

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