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第49話

泣きそうだった雅実は、ついに涙をこぼした。 「お、おれさ…ック。まさッに、こ、こんなッ…俺ってッ、し、知られッたら…け、けい…ッン、べつされッじゃない、かッ思って…」 嗚咽(おえつ)混じりに話す雅実。 「そんなことで、俺が軽蔑すると思われてたなんて、心外だなー」 逆に、俺は冗談混じりでハハッと笑いながら話す。 「ッで、でも…」 「雅実は、俺が男が好きだったらひくか?」 「ッ?」 「俺が、"男が好きだ"って言ったら、雅実は俺のこと嫌いになる?」 「な、なら、なッい。な、るわッ…けない!」 雅実は、泣きながらも、必死に俺に伝える。 「だろ?だから、俺も一緒」 目をこする雅実の手を取る。 「さっきも言ったけど、どんな雅実でも、俺は、変わらない」 そして、その手を両手でぎゅっと握る。 「雅実が大好きすぎる、ブラコンな弟だよ」 俺はぺろっと舌を出して"えへっ"と笑う。 「あッ、いがと、ま、さと」 "スンッ"と鼻をすすって笑った雅実。 ぐしゃっと泣いたのに、雅実の笑顔は綺麗だった。 そして、少し落ち着いた雅実が、俺の手を握り返す。 「おれッ、て、らじまに、……言うよ」 まだ不安の色が残る顔だけど、それよりも伝える気持ちの方が大きいようだ。 「うん、それがいい」 お互い、"アハハハッ"と声を出して笑う。 重い雰囲気から一転、和やかな空気に変わり、俺はいつものように雅実に話しかける。 「ってか、俺からしたら、寺島の方が悩んでいると思うぞ」 「ゔ……たし、かに」 気まずそうな顔になる雅実。 「でもまー、俺の大事な雅実にキスしたんだから、"しっかり悩め!"だけどな」 茶目っ気たっぷりの笑顔で返すと、 「……雅人、い、一応、俺の好きな奴、なんだから、あんま意地悪するなよ……」 目を伏せながら、消えそうな声でボソボソ言う雅実。 でも、その顔は照れてるようだ。 「そっか……"好きな奴"か……」 さっきまで、寺島が好きなこと、否定してたのに。 「な、なんだよ……」 もう、雅実は変わってる。 自分の気持ちに正直になってる。 それだけで十分だよ。 「ううん。その気持ち、しっかり寺島に伝えてやれよ」 俺がそう言うと、雅実はとびきりの笑顔で頷いた。

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