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第56話
驚きすぎて固まってしまった雅実。
俺は、思わず飛び出そうとなった気持ちを、ぐっと堪える。
オイ、寺島!
こないだのキスといい、お前は毎回唐突すぎる!
い、いつもと違う雰囲気だからって、そ、そんな顔したって、抱きつきOKにはなんねーゾ!
「て、て、てらっ」
ほら、また雅実がテンパってるじゃんか!
なんとか声を発するも、全く言葉になってない雅実。
そんな雅実を無視するように、雅実の肩に顔を埋めた寺島は、
「お願い……もう少しだけこのままでいさせて…お願い…」
蚊の鳴くような声で懇願した。
その声を聞いた雅実は、少し首を動かして、自分の肩に顔を埋める大男を見る。
「……う、うん」
少し戸惑いながらも、優しく微笑んだ雅実。
寺島は分かんないだろうなぁ、この雅実の顔。
そして、"一生気づくな、バーカ!"って思う俺がいる一方で、"早く気づけよ、バーカ!"って思ってる俺がいる。
ハイ、俺、嫉妬してまーす。
なーんて思っていると、寺島がポツポツと喋りだした。
「俺さ、まさか…まさか、自分の気持ちが、受け入れてもらえるなんて、思ってなくってさ…。
いくら、雅実が優しいっていったって、俺の…男からの告白…。
きっと……離れていくって、何度も思った。
けど、言って良かった。……ありがと。……ありがとう、雅実」
はーっ……。
なんだかんだ、雅実も寺島も似てんだよなぁ。
結局、どっちも優しいんだよ。
優しすぎんだよ……。
雅実が、ゆっくりと寺島の腰に手を回す。
「…大丈夫、俺も、同じだから。大丈夫」
その手を少し上げ、"ポンポン"とあやすように叩く。
それは、親が子どもをあやすときにする行為。
そして、子ども頃、俺が泣いたときに、雅実がよくしてくれてた行為。
同い年なのに、数時間早く産まれただけなのに、いつも"お兄ちゃん"してた雅実。
幸せなのに…。
雅実が気持ちを伝えて、その気持ちが寺島と通じあって、雅実が幸せなのに…。
目の前で、雅実の一番じゃなくなるのを見せつけられると…、やっぱり寂しい。
雅実も、俺がももチャンと付き合うって言ったとき、そう思ったのかな?
寂しく思ってくれたのかな?
そうだったら……。
今日ぐらいはこの寂しさに、浸っていいかな。
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