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第59話

不思議そうだった顔が、徐々に険しい顔になっていく寺島。 俺は、こないだの試合を思い出す…。 ま、待て、寺島! こ、ここには、か弱き、じょ、女子の、も、も、も、ももチャンがいるんだ! 「とりあえず、二人とも、こっちに出てこようか?」 ……はい((汗)) 手招きをした寺島に従い、俺とももチャンは、狭い隙間からカニ歩きで、やっとこさ広いスペースに出た。 寺島と対峙して、俺とももチャンが横に並ぶ。 「えーっと、全部見てたんだよな?」 腕を組んで、こちらを見ている寺島。 ヤベー……目、合わせきれねー。 「そうだよな、雅人?」 えーーーっ、何で俺だけーーーっ?! 俺、本来、来る気なかったんですけどーーー!! 可愛い過ぎる彼女に(そそのか)されて、のこのこ付いて来ただけなんですけどーーー!! 「そ、それは……」 「うん……全部、見てた…」 え、も、ももちゃん?! 俺は、グイッと横を向いた。 寺島も、ももチャンが答えるとは思っていなかったようで、びっくりしたようにももチャンを見た。 「寺島君、雅人をここに呼んだのは、私なの…」 「え?」 少し怯えたように言うももチャンと、さらに驚く寺島。 ……俺は知っている。 この顔は、"女優・小森もも"だ。 「これ…」 ももチャンが、左手を上げる。 その手には、1冊の本。 いつの間に本なんて取ったんだ、ももチャン!? 「実は、私もここの鍵を持ってて」 今度は、右手を前に出し、手のひらにある鍵を見せるももチャン。 「私、書道部なんだけど、この本を参考にしたくて…。ただ、あの棚の一番上にあったから。それで、この本を取ってもらうために雅人を呼んだの…」 さっきまで隠れていた方の本棚を指し、スラスラ説明するももチャン。 でも、怯えたような声色は忘れずに。 「そしたら、雅実君と寺島君が現れて…。隠れるつもりはなかったけど…、二人とも深刻そうな顔をしてたから、思わず隠れちゃって……」 涙目で寺島を見つめるももチャン。 これにはさすがの寺島も、 「そうだったんだ…。ごめん、問い詰めたりして」 申し訳なさそうに謝った。 寺島は、完全にももチャンの演技に騙されている。 「俺、てっきり、雅人が雅実のことが心配で、雅実から場所を聞き出して一部始終見てるつもりだったのかと…」 当たらずしも遠からずだ、寺島。 ただ、一番は、ももチャンのイタズラな好奇心だけどな。

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