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ドキッと?!夏祭り 第6話

すし詰め電車に揺られること15分。 降りた駅は、すでに浮き足立った人達でごった返していた。 「毎年思うけど、こんだけの人、どっから湧いてくるんだ?」 「……俺、久々に電車で人酔いしたかも」 雅実は、ゔーっと顔をしかめている。 「でも、人がぎゅうぎゅうっていうのも夏祭りって感じじゃない?ね、寺島君?」 「そ、そうだね…」 ももチャンが寺島に話しかけると、寺島は目を泳がせる。 これは、何かあったか?? 「んー、確かにももチャンの言う通りかも…。非日常感があるね」 鈍感な雅実は、高揚している人の群れを遠くまで眺めている。 方や、ひそひそ何かを話しているももチャンと寺島。 「花火は8時からだから…、1時間半ぐらいか。じゃあ、ひとまず腹ごしらえにしよう!」 二人のことは気になるが、とりあえず今年の夏祭りを楽しもう! ここの夏祭りは花火が上がる。 花火会場までの道のりには、路面店がお祭り仕様で、店の前に飲み物や食べ歩き向けの料理を売っている。 会場に着けば出店も多く並び、地元じゃなかなか大きな夏祭りだ。 「俺、絶対はし巻き※食うー!!」 「私は、暑いし…かき氷かな」 「俺も、かき氷にしよう。寺島は?」 「んーそうだなー…。何か食う前に、射的してーかも」 「あ、射的いいね!!」 俺達は、夏祭りらしい会話をしながら、会場へ向かう。 「それにしてもさー、三人とも浴衣って。雅実、俺にも言ってくれよ。一人私服だし」 「ごめんごめん。ちょっと寺島を驚かそうと思って」 「驚くも何も、まず、雅人と色違いってのが気に食わん!」 人混みの中、やいのやいの言い出した雅実と寺島。 二人の関係を知ってる俺からしたら、完全にイチャつきカップル。 そして…… 「…ヤバい。寺島君の嫉妬、カワイイ…」 自らの欲望を現在進行形で叶え、嬉々(きき)としているももチャン。 うん、そうだよね、そうなるよね、ももチャン。 でも……。 去年の夏祭りは、俺に遠慮して行かなかった雅実。 そのおかげで、ももチャンと存分に夏祭りを楽しんだ俺。 だから、今年は雅実にも存分に楽しんでもらいたい! 俺は、サマーナイトトリップに出ているももチャンの、浴衣の袖をちょいちょいと引っ張る。 「何、雅人!?私、今、"ちょこっとご機嫌ななめなナイト寺島"と、"天使の笑みで(なだ)めてるプリンス雅実"の、王室系イチャラブを堪能してるんだけどっ!」 (俺にはよく分からない?)妄想を邪魔され、鋭い眼光で俺を見るももチャン。 ひ、(ひる)むな、雅人! いつもの俺ならすぐさま降伏するが、今日の俺っちは、大好きな兄のため、一肌脱ぎますっ!! 袖から腕に握りかえ、グイッとももチャンを引っ張る。 「ちょっ!?雅人??」 急に引っ張られ、後ろにつんのめるももチャン。 人の流れに乗ったまま、歩いていく雅実と寺島。 「雅実君、寺島君!!」 ももチャンが二人の名前を呼ぶも、周りのざわつきで気付かない二人。 俺とももチャンの前を歩いていた二人との距離はどんどん離れて行く。 それでも俺はももチャンの腕を引いたまま動かない。 「ちょっと雅人!」 ももチャンは慌てた顔で俺を見る。 「いいのいいの、これで」 内心"ももチャンごめん"と思いつつ、 「雅実と寺島には、"二人の夏祭り"を楽しんでもらおう?」 人波に消えゆく二人の頭を見つめた。 ※はし巻き …お好み焼きを、割り箸で巻いた料理。中国・九州地方では定番の屋台飯。

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