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酷く甘い男
「…クールダウン行くんだろ?」
少ししてから、足音が聞こえないのに気付いて振り返る。何のんびり歩いてんだよお前は…!
そうこうしてる間に、他の奴らも仕上げのランニングのために外に出て来た。あいつらは炎天下の中で、グラウンドのトラックをひたすらぐるぐると走る。
やっと横に並んだジャスティンの歩調は相変わらずゆっくりで、走り出す気配がない。それどころか、こっち、と手を引かれて体育館の壁に沿って歩いてる。
「向こうは暑いだろ?」
「そうだけど…」
体育館の裏側は日陰になっていて、座るよう促される。壁に凭れて腰を下ろすと、ひんやりして気持ちいい。
隣に座ったジャスティンが、おもむろに俺の腕を取り揉み始めた。親指が筋肉に沿って揉みほぐしてきて、溜まった乳酸を散らしてくれる。
痛くないかと気遣いながら、反対側に移動して同じように揉んできて、なんだか申し訳ないような気がする。
「もういいって…」
「だめだ。それに、オレがしたいからさせてくれないか?」
にっこりと笑ってそう言われてしまえば断れるはずもなく、頷くしかない。
前から思ってたけど、こいつは俺に甘い。なんていうか、継が創にするみたいな。そんだけ大事にされてるんだと思うと、くすぐったいというかなんと言うか。
優しいのとはちょっと違うな。過保護に近いってくらいだ。
「脚、触るから」
「ん……」
そっと暖かい手のひらが脹脛に触れる。ぐっと押されるとちょっと痛いけど、それが気持ちいい。
いつも思うけど、こいつ、マッサージ上手いよな。次の日に疲れやだるさを残した事がない。
ふとその手が止まり、どうしたのかと思ったら、顔の横にその手のひらがのびてきて、気付いた時には頬を包み込まれていた。
「そんなに見つめないでくれ。これでも我慢してるんだ」
「ッ、な、に言って……んっ…!」
一瞬だけ重なったそこが熱を持つのがわかる。だんだんと唇から顔全体へ、そこから体全体へ広がり、一気に熱くなっていて。
戻るぞッ!と絞り出すような声でそう告げて立ち上がり、後ろでくすくす笑うのを聞きながら歩き出した。
くそっ、なんなんだよ…!
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