24 / 101

酷く甘い男

「…クールダウン行くんだろ?」 少ししてから、足音が聞こえないのに気付いて振り返る。何のんびり歩いてんだよお前は…! そうこうしてる間に、他の奴らも仕上げのランニングのために外に出て来た。あいつらは炎天下の中で、グラウンドのトラックをひたすらぐるぐると走る。 やっと横に並んだジャスティンの歩調は相変わらずゆっくりで、走り出す気配がない。それどころか、こっち、と手を引かれて体育館の壁に沿って歩いてる。 「向こうは暑いだろ?」 「そうだけど…」 体育館の裏側は日陰になっていて、座るよう促される。壁に凭れて腰を下ろすと、ひんやりして気持ちいい。 隣に座ったジャスティンが、おもむろに俺の腕を取り揉み始めた。親指が筋肉に沿って揉みほぐしてきて、溜まった乳酸を散らしてくれる。 痛くないかと気遣いながら、反対側に移動して同じように揉んできて、なんだか申し訳ないような気がする。 「もういいって…」 「だめだ。それに、オレがしたいからさせてくれないか?」 にっこりと笑ってそう言われてしまえば断れるはずもなく、頷くしかない。 前から思ってたけど、こいつは俺に甘い。なんていうか、継が創にするみたいな。そんだけ大事にされてるんだと思うと、くすぐったいというかなんと言うか。 優しいのとはちょっと違うな。過保護に近いってくらいだ。 「脚、触るから」 「ん……」 そっと暖かい手のひらが脹脛に触れる。ぐっと押されるとちょっと痛いけど、それが気持ちいい。 いつも思うけど、こいつ、マッサージ上手いよな。次の日に疲れやだるさを残した事がない。 ふとその手が止まり、どうしたのかと思ったら、顔の横にその手のひらがのびてきて、気付いた時には頬を包み込まれていた。 「そんなに見つめないでくれ。これでも我慢してるんだ」 「ッ、な、に言って……んっ…!」 一瞬だけ重なったそこが熱を持つのがわかる。だんだんと唇から顔全体へ、そこから体全体へ広がり、一気に熱くなっていて。 戻るぞッ!と絞り出すような声でそう告げて立ち上がり、後ろでくすくす笑うのを聞きながら歩き出した。 くそっ、なんなんだよ…!

ともだちにシェアしよう!