30 / 101
指先と心の温度差
「ずいぶん簡単な条件だな、ダイスケはそんなラクに手に入るのか?」
「っ、それ、は……」
俺なりの覚悟を示したつもりだった。けど、誰かに背中を押して欲しかったのも事実で。
何かきかっけがないと、こいつと先に進めないと思って言ってみた。それをこいつに委ねるなんて、狡い方法だとは思うけど、こいつの本気を見たいとも思っていて。
リングを見据える碧い瞳がすっと細められる。不敵に微笑むその横顔に、少しだけ胸が高鳴った。えっ、なんだよドキッとか、少女漫画か。
「…昼までには終わらせる。覚悟しろよ、ダイスケ」
ふわりと弧を描いて放たれたオレンジ色のボールが、乾いたネットの音を立てて次々とリングに吸い込まれていくのを、俺はただ黙って見つめていた。
うるさいくらいに鳴る心臓の音とは対照的に、緊張感で指先がどんどん冷えていくのがわかる。いやいや、俺が緊張してどうすんだよ…
ただぼーっと突っ立って見てんのもあれだし、跳ねるボールをカゴに集めてやると、ジャスティンがそれをひたすら放る。ただそれの繰り返しだ。一定のリズムを保って、ゴールを積み重ねていく。
ちらりとその表情を覗き見ると、ものすごい真剣な顔で、不覚にもかっこいいとか思ってしまう俺は相当バカだな。こいつがかっこいいのなんて、最初から知ってたのに。
「大介、何やってんの?」
戻って来た継が、転がっていたボールを持って来てくれた。
「…あいつがスリー500本連続で決めたら、お前らみたいにするって言ってやった」
「マジかよ………つーか、やっぱまだヤってなかったんだな」
呆れたような継の言葉が、次に衝撃的な事実を伝える。
「あいつの連続最高記録、確か1000越えてなかったっけ?」
「………化け物か」
ともだちにシェアしよう!