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誰もいない教室の片隅で
「あー…っと、創、ちょっといいか?」
体育館の入り口近くの風通しの良い場所に座ってる創を捕まえて、一緒に昼飯作ると梅ちゃんに伝えて家庭科室に向かった。
ついてこようとするジャスティンの鳩尾に肘鉄を食らわせて、唸ってる間に継に押し付ける。「悪い、ちょっと創借りる」そう告げて、大量のそうめんが入ったビニール袋を持って先に行く。
ぱたぱたと後ろからついてくる創の足音を聞きながら、どう切り出したもんかと悩むものの、すぐに家庭科室に着いてしまった。
「どうしたの?何かあった?」
中に入ってドアをしめると、何かを察した創が椅子を用意してくれた。エアコンのスイッチを入れて、俺もそこに座る。
こいつは昔から勘がいいというか、空気が読める。俺も継も、創に嘘がつけた試しがない。
「えー、と…あのさ、」歯切れの悪い言い方で、さっきの事を創に話し出した。
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「ふうん、そっか…」
俺の話に相槌を打ちながら全部聞いてくれた創が、ふわりと笑って、項垂れてる俺の頭を撫でる。
恥ずかしくて、でも不安で、こんな事を相談出来んのは創しかいなくて。膝の上でぎゅっと握りしめた手を、優しく包んでくれる。
「いいの?イヤじゃない?無理してない?」
「ん…大丈夫、それはない」
それはないんだ、本当に。男同士だからって別に偏見はないし、それを否定する事は目の前にいる創をも否定する事になる。てゆーか、むしろこいつら見てれば好き同士ならいいんじゃないかとか思うし。
ただ、問題は俺にある。
「…あいつがいなくなったら、俺…ダメかもしんない」
「大ちゃん……」
そう遠くないうちに、あいつは帰国する。そうなった時に、俺はどうなるんだろう。
口約束だけど、お互いの未来をお互いに預けた。でも、もしもそれが叶わなかったら?もしも離れてる間にあいつの気が変わったら?あいつの温もりを知ってしまったら、もう戻れないような気がする。
怖い。今ならまだ戻れる。けど離れたくない。
いつの間にか、あいつの存在が俺の中でこんなにも大きくなっていた事にもびっくりだな。
色んな事を考えてしまう。俺こんなウジウジしたヤツだったっけ?
ネガティブな感情に押し潰されかけた時に、コツンと額が合わさった。
「大ちゃん、ジャスティンの事…信じてあげて?」
「…………おう」
「大丈夫、きっと大丈夫」
とん、とん…背中を優しく叩いて、いつも継にするみたいにしてくれる。ぐるぐる渦巻いていた黒いものが、スッキリと晴れ渡った。
すごいな、創は。継をコントロール出来んのは創しかいないのがよく分かる。
ああ、そうか。あいつをコントロール出来んのは俺なんだ。俺をコントロール出来んのも、あいつしかいなくて。
なんだ、結局俺もあいつも、お互いがいなきゃダメじゃん。
「サンキュー、なんか、スッとした」
「そう?ならよかった」
創がにっこり笑って立ち上がって戸棚から大鍋を取り出したのと同時に、家庭科室のドアが開く。嵐のような勢いで走ってきた継が、後ろから創に抱きついた。
「創、もういいだろ?」
「うん。ね、大ちゃん?」
こくりと頷いた俺の後ろに迫ったヤツに、再び肘鉄をかましてやった。
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