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ホームワークが終わらない
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「Home work?」
いつものロードワークの後に筋トレ。だいぶ慣れたそのルーティンが終わり、シャワーを浴びてから部屋に戻ってきた。
合宿前に机の上に出しっ放しだった数枚のプリントを見て思い出す。
「ん……数学、ちょっと苦手でさ、これだけ残ってる」
他のものは授業中に配られてすぐに取り掛かり、あらかた終わる目処はついていた。
ぱっとプリントを奪うジャスティンが、その数字に目を通す。ふっと笑って椅子を引き、そこへ座るように大介を促した。
素直にそれに従う大介に、心の中で跳びはねる。けれど、必死にポーカーフェイスを取り繕い、後ろから覆い被さるように机の端に手を付いてペンを取る。
「ここは、こうして……この公式を使うんだ」
「えっ、あ…ああ、うん…」
近い近い近い!そう焦る気持ちを悟られないようになんとか言われた事に集中しようと意識を数字に向けてみる。向けてみて、そして失敗した。
ペンを持つジャスティンの指先に見入ってしまい、数字なんか頭に入らない。
「ほら、できた」とペンを置いた音にはっとして、離れていく手のひらをつい目で追ってしまう自分自身に気付き、ぎゅっと左手に消しゴムを握り締める。
ふうー、と大きく息を吐いてジャスティンが書いてくれた数式に当てはめて計算を進める。最後の数字を書き終えて「……こう?」と見上げれば、にこりと微笑まれた。
「Good boy!」
「ぅわっ⁉︎何すんだバカ!」
わしゃわしゃと髪を撫でられて、突然のその行動に驚くも、嫌ではないからされるがままになる。寧ろ嬉しいとさえ思ってしまう。
かあっと火照る頬を自覚しながら次の問題に取り掛かる。すぐに先ほどと同じように後ろから覆い被さってきて、さらさらとペンを走らせていく指先にどうしても視線が行ってしまう。すぐ後ろに感じる温もりと耳元で囁いてくる少し低い声に、ぞくりと肌が粟立つ。
「っお、まえ、近いって…!」
「ああ、知ってる」
わざとか!そう気付いた時には既に遅く、耳たぶを唇でやんわりと食まれた。「んぅ……」と押し殺した声を漏らしてしまい、慌てて手の甲を唇に押し付ける。くすりと笑う息遣いがそこで聞こえ、ふっと耳に息を吹き掛けられた。
ぞくぞくとした甘い疼きが体の中から湧き上がるその感覚に一気に力が抜けてしまい、握っていたペンを落としてしまう。カタン、という音にはっと理性を取り戻し、一度顔を机に近付けてから思い切り後ろに反らす。
ゴン!という鈍い音と共に咳き込むジャスティン。うまく肋骨のあたりに当たったらしく、自分から離れて悶絶している姿を見ればやり過ぎたかと思わなくもないが、このまま弄られる気もさらさらない。
「教えるんなら真面目に教えろバカ!」
肋骨部分を抑え苦笑いしながらも額に落としてくるキスは、罪悪感もあって甘んじて受け止めてやる。
この調子だとまだまだ終わらないな、と思うと、少しだけ口角が上がったのには気付かないフリをして。
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