41 / 101
when I laugh, you laugh too
だんだんと客席が埋まっていき、ショーの開始が近いのがわかる。さっきまで泳いでいたイルカ達は、もう別のプールへ移ったようだった。
他愛のない話をして時間があっという間に過ぎていき、突然大きな音楽が流れ始め、ショーの開始を告げる。
「皆さんこんにちはー!」
こんにちはー!に合わせて、飼育員と共に登場したアシカがぺこりとお辞儀をする。
ボールや輪っかを使った芸を次々に披露して、会場では歓声が上がった。
「さあ、では今度はお客様にお手伝いしてもらいます」
急に飼育員が客席にやってきて、真正面に位置する辺りまで歩いてくる。二人の前まで来て、にっこりと笑った。
「こちらの金髪のお兄さん、お手伝いお願いします!」
「…え?」
飼育員が持っていた小さいゴム製のボールを手渡されたジャスティン。プールサイドぎりぎりまで前へ出るよう促され、渋々ながらそこへ移動する。
プールの中でぷかぷか浮いているアシカに、そのボールをパスしてあげるらしい。
「もちろん、直接ゴール狙ってもオッケーですよ!」
ゴールがあるのは舞台の上。飼育員のそのセリフはもちろん冗談だと思われていて、会場が笑いに包まれた。
手の中のボールとゴールを見つめるジャスティン。ちらりと後ろを振り返ってみると、まるで悪戯を企てるかのような大介の笑顔があって、くい、と顎で示される。それに口角を上げて答えると、再び正面に向き直った。
「では、お願いします!」という飼育員の声。
目を細めてゴールを見据える。ゆっくりと全身のバネを使い、伸び上がると同時にボールが放たれる。
プールの中で待機しているアシカがそれを追って泳ぎ出す。けれども、それは当然のようにゴールに吸い込まれていき、アシカの出番は無くなってしまった。
一瞬の静寂の後、会場には大歓声と拍手が沸き起こる。呆然としていた飼育員もはっと我に返ったように「すっ、すごーい!初めてですよ!」と興奮気味だ。
「ほんとにやりやがったな」
「当然だ」
パン!とハイタッチを交わして席に着くと、別の飼育員がジャスティンのもとにやってきて、お礼にとストラップを二本手渡した。「いつもは一つなんですけど、今日はスゴイもの見せてもらったので」と。
ショーが終わり館内に戻って、空いていたベンチに腰を下ろす。もらったストラップをスマホにつけてご機嫌なジャスティンが、大介に手のひらを差し出す。
「貸して」
「え、俺の?」
にこにこと頷くジャスティンに自分のスマホを渡すと、そこに同じストラップをつけて手渡した。
「…さんきゅ」と俯き加減でそれを見つめる大介の耳までが真っ赤に染まっているのを、嬉しそうにジャスティンが隣で眺めていた。
ともだちにシェアしよう!