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次があったらよかったのにな

朝一の直行バスに乗ってパークを目指す。 母さんに駅まで送ってもらう途中でコンビニに寄って、おにぎりとサンドイッチを買って車内で食べた。食べたら眠くなってきて、ついうとうとしたら窓ガラスに勢いよくぶつかって、隣でくすくす笑いながら頭を引き寄せられる。そのまま肩にもたれて力を抜くと、さらさらと髪を撫でられる感触が気持ちよくて、すっと意識が沈んだ。 次に意識が浮上した時にぼーっとしながら隣を見てみれば、幸せそうに笑いながらこっちを見てくるジャスティンがいて、なんか胸ん中がぐるぐるする。なんだかわかんないからとりあえず肩に頭突きしといた。 バスが到着して、皆が一斉にゲートへ向かっていくのを眺めて、二人で笑いながら少しの優越感に浸る。 夏休み最後の平日にもかかわらず、パークは大勢の人で賑わっていた。バッグから出したチケットのおかげで長い列に並ばずにゲートを抜けて、園内マップを二人で見る。 「どっから行く?」 「ダイスケに任せるよ」 「んー、今日一日じゃな…」 そう、アトラクションだけじゃなくてショーやパレードなんかもある。今日一日じゃ回り切れないほどたくさんあって、また次に…という考えが頭を過る。 そっか、次は、いつかわかんないのか… そう思ったら、なんか気持ちが萎んでいくのがわかる。 「次、あればいいな…」 ふいに口をついて本音が出てしまって慌ててそこを手のひらで抑えるけど、零れた言葉を掬って戻す事はできなくて。 じっと見つめてくる碧い瞳から逃れるように、くるりと背中を向ける。そのまま一歩踏み出したところで、暖かいものに包まれた。 抱きしめられてるんだとぼーっとした頭で気付いた時には、既にそこから抜け出せないくらいにぎゅうぎゅうと力を込められていて、体が動かせない。いや、動けない。 「…明日、また来よう」 「ばか、部活…」 「明日、また来よう…」 「っ…、は、なせ…」 耳元で聞こえる絞り出したような声。頷いてしまいそうになるのを必死に堪えて、ぐっと手を握りしめる。 ぺろ、と耳朶を舐められた時、体がびくっと震えた。 「明日はブカツ、無いよ…」 「なん、で…」 バスの中で継から連絡があった、と直接そこに囁かれる。この少し低い声は、嫌いじゃない。

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