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しるし

【ジャスティンside】 会えなくなるのなんて、最初から分かっていた。分かっていて、止められなかった。 会う度に気持ちが昂ぶって、胸の奥が締め付けられるみたいに痛くて、触れたくなって、抱きしめたくなって。 やっとその全てを自分のものにしたかと思えば、実際にはその反対で、自分が捕らえられていた。 だから、お互いの未来を約束し合えた事で満足していたら、きっとまた強烈なエルボーをお見舞いされるだろう。結果を出して、約束を果たせた時に、改めてその全てを手に入れたい。 「暗くなってきたなー」 アトラクションに照明が点き始めた頃には、空がオレンジ色にから紫へと変わっていた。 休憩がてら座ったベンチ。繋いだ手が振り解かれないのに浮かれていたら、ふいにきゅっと力が込められる。 今なら、大丈夫だろうか?繋がれた手とは反対の腕でその細い肩を引き寄せる。 「なっ、人がいんだろ…!」 「誰も見てない」 もう少ししたらパレードが始まるらしく、メインストリートの両脇には人が集まり始めている。思い思いにパンフレットや携帯などを見ていて、誰もオレ達には見向きもしない。ましてやメインストリートから少し離れた場所のせいか、人通りすらも少なかった。 髪と髪とが触れ合って、さらさらと音がする。手首に結び付けたミサンガを撫で、そのまま腕を伝って頬を包み込む。指先で柔らかな唇に触れると、抱き寄せた肩がびくりと震えた。 「キスしていい?」 「やだ」 「じゃあしない」 「………ちょっとだけ、だから、な」 じっと見上げてくる瞳が濡れている。 ああもう、なんて可愛いんだろう!ここがベッドの上じゃなくて本当によかった。 そっと唇を合わせる。すぐに離れてまた触れて、何度も何度も繰り返す。まるで母親が子供にするみたいなキスだけど、愛しさが伝わるなら今はこれでいい。 「ん、くすぐったい」 「イヤ?」 「…べつに」 「後で、もっとしたい」 「………勝手にしろバカ」 すぐそこからパレードの音が聞こえる。人が集まり、ライトが光る。 そんなものよりも、消え入りそうなダイスケの吐息と潤む瞳の方が何倍も綺麗で、ずっと覚えていたいと心の底から願った。

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