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抱き寄せた君はまだ見ぬ未来に震えていた
【大介side】
一人になった部屋の中。特にやる事もないし、そのままソファにごろんと寝っ転がる。
ふと腕を上げて手首に結ばれたミサンガを眺めてみた。
あいつにはあんな事言ったけど、正直なところ不安でしかない。
俺の漠然としていた進路は決まったけど、行き着く先にあいつが待っていてくれるとは限らない。だって、高校を卒業するまであと1年半、それから専門学校を卒業するまで2年くらい、学校によっては3年かけるところもある。それから更に経験値を積まなきゃ、トッププレーヤーの専属トレーナーだなんて夢のまた夢だ。
何年も先の事を考えて、ため息が出た。その間にあいつの気が変わらない保証なんて、どこにもないんだから。
上げた腕で瞼を覆うと、考える事を放棄して、一日中歩き回った重い体から力を抜いた。
ふわふわする。あったかい。
俺の好きな匂いに包み込まれて、なんだか安心する。
ん、なんか呼んでる、気がする……
「…ん、なに…?」
「あ…sorry、起こしてしまったか」
意外に近くから聞こえた声。沈んでいた意識と瞼を引っ張り上げると、目の前に蒼い瞳があった。
「ソファで寝たら疲れるだろう」と、ふわりとベッドに降ろされた時にやっと抱き上げられてたのに気付く。
暖かな体温といい匂いに包まれていたのが、一瞬にして離れていく。シーツの冷たさが突き刺さるみたいだ。
「…そんな目で見ないでくれ」
苦笑しながら額にキスされて、おやすみ、なんて囁くその声が好き、だと思う。
そっと布団を肩まで掛けられてその暖かさに目を閉じた時、枕を持って移動する気配に気付いた。
「お前、どこで寝んの?」
「え?ソファだけど…」
むかつく。
俺をベッドに運んだ理由はソファで寝たら疲れるからじゃなかったのか?バカかこいつは。バカだな、うん。
ぱさりと布団をめくって、ばふばふとシーツを叩く。犬ならこれですぐに入って来るだろ、前にテレビで見たのを思い出した。
けど、こいつはバカだから、ちゃんと俺が言ってやんなきゃない。
「こっち来い」
「や、でも…」
「いつも隣で寝てんのに、今日はどうしたんだよ?」
「あー…その、二人だけだし、きっとガマンできない…」
「我慢しろ、今日は寝る」
ベッドサイドであーだこーだ言ってるこいつのバスローブをぐいっと引っ張ると、さすがにバランスを崩して倒れ込む。少し体をずらしてやれば、観念したのか横になった。うん、俺の勝ちだな。
今日と明日しかこうして一緒に寝れないんだから、少しだけ俺が妥協してやる。後ろから抱きついてきて暑いけど、まあ我慢してやろう。首筋がくすぐったいのも、まあこれも我慢してやろう。
明後日の今頃、俺は一人なんだから……
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