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ふわり、香る
人混みを感じさせない優先観覧エリアは、ステージの真ん前だった。
そう、真正面。
この夏の目玉イベントの一つに数えられるこのショーは、ド派手に水を使ったショーだった。
結果、びしょ濡れ。でも火照った肌に冷たい水が掛かって気持ちい。
「ふっははっ、お前髪ぺっちゃんこじゃん!」
キラキラと雫に太陽が反射して眩しい金色は、濡れてぺたんとしていた。いつもはさらさらしてて触り心地がいいんだけど、今はなんかシャワー浴びたゴールデンレトリーバーって感じ。ぷるぷるってやりそう。
濡れたTシャツが体に貼り付いて、なんか動きにくい。ん?これ、絞れんじゃね?
「ちょっ、ダメっ!Wait!!!!」
「うわっ、何すんだよ!」
着ていたTシャツを脱ごうと裾に手を掛けたところで、なんかすごい顔したジャスティンに止められた。なのに何故かジャスティンが羽織っていたシャツを脱いで水気を絞り、俺の肩に掛けてくる。
「それ、着て!」と言うなり顔を赤くしてそっぽを向かれた。なんだよそれ、お前だけ脱いでなんで俺はダメなわけ?
「そんな薄いTシャツで、体のラインはっきり分かって……もうちょっと、その、自覚?してクダサイ」
「はあ?何バカな事言ってんのお前…」
自覚しろだって?どの口が言ってんだよ。
お前こそ、頬から首筋に沿って伝う水滴とか、タンクトップ越しにも分かる広背筋とか、シャツ脱いで丸出しの上腕筋とか、他にも色々あるけどさ。
けど、こうやってこいつの匂いがするシャツに腕を通すと、なんか、うん、恥ずい。なんていうか、こう…抱きしめられてるみたいで、襟元とかくんくんしてみたり。
燦々と降り注ぐ陽射しが水分を蒸発させていく。このぶんだと一時間もしないうちに乾いてくれるだろうけど、このままこいつのシャツを着ていたかった。
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