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最後の晩餐
【大介side】
最悪だ。気付いたらもうバスは高速を降り、見慣れた風景が目に入ってきていて、もうすぐ着くんだとわかった。
てゆーか、泣き疲れて寝るとかガキみてえ……変に寄り掛かってたからか、なんか首が痛いし。
ぐっと引き寄せられたままの肩をちらりと見て、少しだけ胸がチクっとした。なんでだ?わかんねえ…
「…おい、もう着くだろ」
「ああ、もう少しだけ…ダメか?」
「…………別にいいけど」
わかった。離れるのが嫌なのか。
そのままの姿勢でスマホを取り出して母さんに連絡すると、もう駅に着いてるとすぐに返信が来た。
それからしばらくしてバスが止まる。荷物を持ってバスターミナルを見渡せば、見知った車が停まっていた。二人で歩いて行くと、運転席にはにこにこ笑う母さん。
「おかえり。デートはどうだった?」
「はあ!?何言ってんだよ……」
「最高でしたヨシミさん!」
「お前は黙ってろバカ!」
車に乗り込んですぐにそんなやり取りをする。握られた掌が熱いのは気のせいだ。
「今夜はみんなでパーティーよ!」と張り切る母さん。助手席側にはジュースやらスナック菓子やらなんだかたくさん詰まった袋。
ああそうか、今夜はこいつとの最後の晩餐だ。
「またずいぶん大量だな」
「あら、だって創ちゃんと継ちゃんもいるもの」
双子は既に家に来ていて、創が母さんから引き継いで夕飯を作っているらしい。まあ、創のから揚げは母さん仕込みで美味いからな。
それより。双子を二人きりにして残して来るなんて、なんか心配なんだけど、色々と…
家に帰ってキッチンを覗くと、創の背中に継がべったりくっついていた。その状態で料理を作る創もすげえな。
「あ、大ちゃんおかえり!」
「ん……ただいま」
声をかければ振り返ってにっこり笑う創。いや、俺ん家だけどな。
ジャスティンから荷物を受け取ってそのまま風呂場に押し込む。引きずり込まれそうになったところをどうにか引き剥がしてドアを閉めた。
「すぐに出るから!」という言葉通り本当にすぐ出て来た。いや、ちゃんと拭いてから出て来いよ…
「ったく、しょうがねえなあ……」
買って来たジュースなんかをテーブルに並べていた手を止めてタオルを引っ手繰ると、まだ水滴がぽたぽた落ちる髪を拭いてやる。椅子に座ってじっとおとなしくされるがままになってる姿は、ご主人に撫でられて安心してる大型犬そのものだ。
ある程度水気を拭き取って乱れた髪を整える。よし、そこそこカッコ良くなったな。なんて思ったのが悔しい。だってこんなにも締まりのない顔でデレデレしてるんだ、顔見たらがっかりする。なんでそんな嬉しそうなんだよ…
「さーてと、ちゃちゃっと仕上げちゃおうか創ちゃん!」
「はーい。じゃあこれは……」
母さんが手を洗って、創の横に並ぶ。その後ろには相変わらず継。何も突っ込まない母さんもすげえな……慣れって怖いマジで。
あらかじめ母さんが下ごしらえしていた物を創が手際よく料理して、盛り付けていく。あっという間にテーブルの上がいっぱいになって、五人でそれを囲んだ。
いつもなら美味そうに見える料理なのに、なんだか今日は食欲がない。理由はわかってる。これが最後だから。食べ終わってしまえば、もう明日になる。それを察しているんだろう創が気を遣って皿に取り分けてくれたりするけど、あまりそれも減らなくて。
「疲れたから先風呂入ってくる、ごめん」
皆の顔を見る事なくそう告げて席を立つと、一人で風呂場に向かった。いや、逃げたんだ。
シャワーでこのぐるぐるする気持ちを洗い流して部屋に戻る。ドアを開けてみれば、ジャスティンがベッドに座ってじっと掌を見てる。こっちに気付いて顔を上げて手招きされた。なんだよ、用があるならお前が来い。いつもならそう言ってやるんだけど、今はなんか素直に行ってやろうと思ってしまう。
ゆっくりと近付いて、真正面に立つ。そっと腰のあたりに腕が回されて、そのまま引き寄せられた。足の間に閉じ込めらる。胸元にある金色の髪を撫でてやれば、すりすりと頬を擦り寄せてくる。やっぱ犬だな。
「…I love you」
「知ってるし」
「Whenever, Wherever, Whatever……」
「ん……」
とん、とん…と背中を軽く叩いてやる。腰を抱きしめる腕の力が強くなって、少しだけ震えてるのが伝わってきた。
ああ、こいつも同じなのか。
それがわかって、なんだか嬉しいとか思う。俺だけじゃないんだ、不安なのは。
擦り付けてくる頬を両手で包み込んで上を向かせると、ゆっくりと唇を重ねてやった。
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