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刻み込め
「……ん、ふ…っ」
後頭部を抑えられて、キスがどんどん深くなる。息が出来なくて、苦しくて、でも離れたくない。なんて矛盾してんだ俺は。
舌の裏側を舐められると、ぞくぞくと何かが背中を上っていく。頭のてっぺんまで行くと、今度はひざのあたりからまたぞくぞくとしたものが臍の周りに集まってきた。
あ、やばい。
そう思った時にはもうかくりと力が抜けていた。
「ぅわっ……!」
ぐらりと揺れた瞬間に引き寄せられた体が、気付けばベッドに横たえられていた。衝撃を予想してぎゅっと閉じていた目をゆっくり開く。
「……バーカ、なんて顔してんだよ」
「っ…!」
目の前にある碧い瞳が揺れる。なんていうか、何かに耐えてるみたいな、辛そうな表情で見下ろしてきて。
顔の横に肘をついて覆い被さってきた。さっきより近付いて、吐息がかかりそうな距離に少しだけ緊張する。
こんな空気、俺達には似合わない。
むにっとその頬を両手でつまんでやった。ほら、笑えよ。俺の中のお前の顔は、そんなんじゃない。
「……次に会う時まで忘れないように、お前を俺に刻み込め」
「ダイスケ…」
首元でかちゃりと音を立てたロザリオをシャツから引っ張り出して、その鎖を指に絡める。銀色に輝くそれに、いつかこいつがやってたみたいに唇で触れた。
「手加減なんかしたら握り潰してやるからな?」
「Hm……それは困るな」
くすりと笑ったそれが、悔しいけどかっこいい。
俺は、笑えてるか?こいつの頭に残る俺はきっと、素直じゃなくて口が悪くて、可愛げのないやつなんだろうけど。
だからせめて、俺の事を思い出してくれる時はいつも笑った顔がいい。
ちらりと見た時計の針は、もう10時を過ぎていた。
「…夜が明けなきゃいいのに…………」
ポツリと口から出た本音にはっとして、慌てて掌で塞ぐ。けど、こんなに近くにいるんだ、当たり前だけどそれはこいつの耳に入ってしまっていて。
掌を取られたかと思えば、すっとそこに指を絡めてシーツに縫いとめられる。
「じゃあ、起きてる間はずっと考えててよ、オレの事を……」
「っ、ん……!」
耳元に囁かれた低い声にぞくっとして、握った掌に力が入った。耳朶を甘噛みされて、くちゅくちゅと音を出しながら舐められると、収まっていた熱がまた集まるのがわかって、堪らずに膝を曲げてそれを逃がそうとする。
俺の動きに気付いたのか、ごそごそと足を動かして俺の両脚の間に入り込んできた。くそっ、ムカつくな…
むっとして睨んでみるけど、首筋に吸い付かれて少しの痛みを感じた時にはもうどうにもならなくて。
少しずつ上っていく息に混じる自分の声を必死に抑えながら、こいつの全てを受け入れる。こんな獲物を狩るみたいな目で見られたら、逃げられない。ゴールデンレトリーバーがドーベルマンになったみたいだ。
さっきまでのしおらしい態度が一変して、今はもう野獣と化しているこいつに抱かれるのは、別に嫌いじゃない。理性無くすくらいに求められているのがわかるから、与えてやりたいと思う。
いつもならゆっくりと時間をかけて俺を昂めていくのに、今日はその余裕がないらしい。
「ほら、来いよ……」
「…ッ!」
ニヤリと笑って両手を広げてやる。情けねえ顔してんな、笑える。
首の後ろに手を回して引き寄せれば、腰をぐっと掴まれる。だいぶ解れたそこに熱いものが充てがわれて息を呑んだ瞬間、目の前が白くなった。
何度も突き上げられて、抱きしめられて。体はもうとっくに限界なのに、心がまだ欲しがっている。
もっと、お前を刻み付けろ……
目が覚めた時、隣にあいつはいなかった。
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