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埋まらない差
あいつが乗った飛行機を見送ってから家に帰って、ぐしゃぐしゃになった顔を洗う。温いと思っていた水が意外にも冷たくて、夏の終わりを告げていた。
いつもはお喋りな母さんが珍しく口数が少ないのは、きっと俺が上の空だからなんだろう。今の俺は何を言われてもまともな答えが返せない。
その日の夕飯は、何を食べたのかよくわからなかった。
次の日は始業式。ぼんやりと校長の話を耳に入れて教室に入ると、何だか何かが始まった。いつもはクラス委員だけが何かするのに、今日は正木もいる。
どうやら文化祭の事を決めるらしい。まあ、今年も俺は裏方に回るから何やろうが関係ないけど。
「あ、忘れてたけど綿貫君もメイドね」
「はぁ!?なんで俺まで!」
「ロー君から頼まれたし」
「あんのクソヤローっ!!!!」
双子がコスプレをするのが決まり、なぜか俺までとばっちりを食った。いやいや、俺まで女装とかあり得ないだろ!!!!しかもここにいないあいつのせいとか!
くそムカつく!!!!後で文句言ってやる!!!!
そう思って時計を見ると、もう昼になるところだった。
フライト時間は12時間くらいで、そっから家まで数時間かかるらしい。こことあいつのいる場所までの時差は15時間。
部活が終わって帰ってから電話したら、向こうは真夜中か……仕方ないからメールだけしておこう、この怒りは直接言ってやんないと収まらないけどな。
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