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きみの隣で眠りたい
【ジャスティンside】
「おい、なんて顔してんだよ」
「…ケイト」
練習が終わってすぐにスマホを握り締め、じっと見慣れた番号を見つめること数分。何度目かのため息を吐いたところで、後ろから伸びてきた腕が画面をタップしていた。
あんなに思い悩んでいた行動が他の誰か……チームメイトであるケイトによって出来てしまい、心の準備もないままに聞こえてくる声。耳元で拡がるそれは、いつもの元気いっぱいなものとは違っていて、言葉通りに胸が締め付けられた。
「なんだ、ベタ惚れか」
「当然だろう、世界一愛してる」
揶揄いの言葉に真剣に返すと、呆れたように両手を竦めてハイハイ、なんて言われてしまう。くるりと背を向けて着替え始めたケイトに少しだけ感謝してロッカーを開ける。いつか貰った大事なタオルを顔に当てて、思い切り息を吸い込んだ。
鏡に映るのは、チームのキャプテンとはとても思えない緩みきった顔。揶揄われるはずだ。
ぱちん、と両手で頬に気合いを入れてみても、思い出すのはあの笑顔で。
「…しまった、明日からこのタオル置いて来よう」
何度もそう思うのに、気付けばいつもバッグに入れていた。
こんなに誰かを好きになったのは初めてで、どうしていいのか分からないくらいに愛してる。本気で連れて帰りたかった。
あの日、まさか空港に来てくれるなんて思ってもいなくて、驚いたのと嬉しいのと、せっかく離れるのを決意した心が揺らいだのと…色んな感情が入り混じっていたところで、強烈な頭突きをくらった。
ボロボロと溢れてくる涙が、綺麗だと思った。自分がそうさせてるのが申し訳なくて、けれど、そこまで想ってくれているのが幸せで。
改めて誓い合った、未来の二人。そのためにも、今は頑張らなければいけない。
早く帰って、シャワーを浴びて、夕飯を食べて。
「……ダイスケと、眠りたい」
今日何度目か分からないため息を吐いて、ロッカールームを後にした。
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