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【番外編】Can't Smile Without You
【大介side】
「ほら、桜。見たかったんだろ?」
最初はぎこちなかったけれど、今ではもうすっかり慣れたテレビ電話。インカメラを切り替えて目の前に広がる薄紅色の花を写してやれば、イヤホンからは歓喜の声が聞こえてくる。
やけにはしゃぐ姿が、いつもとは違ってなんだか子供じみていて、少しだけ可愛いかもしれないだなんて思う自分が恥ずかしい。アホか俺は…
『What a beautiful sight!』
「だろ?ここは穴場なんだ」
地元は観光地ではないものの、この辺り一帯は桜の名所として知られているスポットで、見頃には屋台なんかも並ぶ。その奥まった住宅街に続く裏道は、俺たち地元民しか通らない。
ブランコと砂場、そして滑り台しかないこの小さな公園は、ガキの頃から双子とよく遊んでいた。ここは見晴らしの良い丘、というか山の上にあって、桜の花が目線と同じ高さに広がるのが見える。場所によっては見下ろす事もできて、子供ながらにピンクの雲に乗ってるような気持ちになってたっけ。
再びカメラを切り替えて、画面の隅に自分が映る。ベンチの後ろの桜の花が映るようにして座った瞬間にざあっと音を立てて花弁が舞い散った。
「ぉわっ⁉︎」
細かな砂を巻き上げながら、花弁が吹き飛ぶ。慌てて目元を右腕で覆い、風が収まるのを待った。
あ、しまった。慌て過ぎて腕がコードに引っ掛かったせいで、イヤホンが外れた。
ちらりと窺い見たスマホの画面。なんか、あいつの方が慌ててねえか?
「…ははっ、なんだよ、どした?」
やっと収まった風に乱れた髪を軽く搔き上げて、スマホからだらりと垂れ下がるコードを手繰ってイヤホンを付ける。と、耳元で焦ったような声が響く。
『…サクラ、で』
「んー?」
『見えなくなって、いなくなるかと思った』
……………アホだこいつ。
バカだバカだと思ってたけど、バカじゃなくてアホだったんだな。
こいつが言ってんのは、多分アレだ。ほら、あの日本のドラマとかアニメとかでよくある【桜の花弁が舞い散る光景に恋人が連れて行かれる恐怖】ってやつだ。ちょっと前に聞いてもいないのに正木が教えてくれたやつだ。
あー、なんか、バカらしくてため息出る…
「あのなあ…」
『でも、ダイスケがどこにいても、必ず見付けるから』
「ッ、な、に…」
画面の中の真剣な表情と、耳元で響く少しだけ低い声。
ああ、あの桜の花弁に乗って、俺も飛んで行けたらいいのに………
『ダイスケ?』
「…んー?」
『せっかくきれいなサクラがバックにあるんだ、ほら、笑って?』
「は?バカ言ってんじゃねえよ」
お前がいなきゃ笑えねえ……
*****
ジャス大はどうしても切なくなる…
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