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三
「ごめんなさい」
「・・・・・」
深々と頭を下げ、地面に額を擦る煌 。
それを社 の階段上に腰掛け、見下ろす燐 。
何事も無かったかの様に着物をきちんと着ているが、先程まで煌が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたからだ。
実は仁王立ちで見下ろそうとして、立っていられず座り込んでしまう程、消耗している。
「どうか出て行けとは言わないでください。社 の屋根でもいいので置いてください。口も利かなくていいので置いてください。いややっぱり僕は黙りますから燐は話してください声が聞きたいです」
「少し黙れ」
「はい」
はあ──と長く深い溜め息をつき、言い付け通りぴたりと黙ったまま顔を上げない煌を睨む。
出て行け、などとは言えない。
そもそも、先に傍に居て欲しいと言ったのは燐の方だ。
今も、その気持ちに変わりはない。
「どうしてだ」
「・・・・・」
「何故あんな・・・いや、もおいい、その事は。済んでしまった事は仕方無い、忘れよう。だからもう二度とするな」
「──っ!」
がばっと顔を上げ、必死の形相で訴える煌。
何か言いたそうだが、言い付けを守ってか発言しない。
許された事に礼でも言いたいのだろう。
「いい、話せ」
「そんな酷い事言わないでくださいっ!」
「どこがっ!?ひ、酷いのはどっちだ!」
「僕を焦らし続けた燐です!!」
「じら・・・何故そうなる!?」
両手両膝を地面についていた煌がさっと立ち上がり、相変わらず立ち上がれず座ったままの燐へ迫った。
「ひ・・・っ」
「僕は燐を抱いた事を忘れないし、また燐を抱きます」
「なっ!?」
「愛しているんです」
真剣で、真っ直ぐに、燐を射抜く金の瞳。
射抜かれた燐は声も出ず、ただ見つめ返す事しかできない。
愛している・・・あいしている・・・・・アイシテイル・・・・・・・。
頭の中を煌の言葉がぐるぐると廻る。
顔から火が出そう、いやたぶん出ているのに、金の瞳から逃れられない。
「・・・ぅ・・・ぅう」
ぽろ、ぽろぽろ。
「り、りん!?」
急に泣き出した神さま。
狼狽える黒猫。
「燐・・・そんな、泣く程・・・嫌だったんですか・・・」
「ち・・・違うっ・・・わ、わたしは・・・っ、そうじゃ、ない・・・っ」
煌が控えめに燐を抱き寄せる。
背中を摩っていると、少しずつ落ち着いてきた燐がぽつりぽつりと話始めた。
「二度と、するなと言ったのは・・・噛みつくのをやめろと、言ったんだ」
「・・・え?」
「い、痛い、から・・・別に、二度と触るなとは・・・言って、ない」
やや間があって、控えめだった煌の腕に力が籠り、ぎゅうぎゅうと燐の華奢な身体を抱き締めた。
「燐──っ!」
「く・・・くる、し・・・・・んんぅっ」
煌に深く口づけられ、抵抗しようにも、消耗していた上に泣きじゃくったので力が入らない燐。
為す術もなく、押し倒されてしまうのだった。
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