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五
「もお謝ったって赦してなぞやらんからなっ!」
「噛み付かなかったじゃないですか」
「そーゆー問題じゃないっ!」
燐 の着物を整え、髪を櫛でとかしてやる煌 。
力が入らないのでされるがままになっているが、先程からずっと悪態を吐いている神さま。
「お前は屋根で寝ろ!」
「分かりました」
素直に即答する煌。
燐の髪をとかし終えたら、躊躇なく外へ出て屋根に上がるのだろう。
「・・・ぁ、雨が・・・降っているのだぞ・・・?」
小一時間前から雨が降っていた。
燐が気付いていたのだから、煌が知らない筈がない。
「僕は野良猫ですから、雨でも大丈夫です」
嘘を吐け。
野良猫だって雨が降っていたら屋根には上がらないだろう。
「・・・か、風邪をひいたら・・・どおする」
「今の僕は風邪なんてひきませんよ。雨に打たれながら屋根で寝ても大丈夫です」
「・・・・・」
結局、社 の中で何時もの様にふたり寄り添って横になる神さまと猫。
外が雨だと煌はよく、うつらうつらしている事が多い。
今も、眠っているのか起きているのか、瞼を閉じているかと思えば、たまに燐の髪を撫でたり、ふと見ると目が合ったりする。
「な、何だ、寝ないのか」
「燐の寝顔が見たくて」
「ぉ、お前の為に寝てやるのではないからなっ・・・・・ぃ、いいからもっと撫でろ」
煌の懐に顔を埋め、撫でろと催促する神さま。
黒猫はふふ、と笑って、燐の髪を撫でた。
雨は、さあさあと静かに降り、水琴窟が鳴っている。
こんな時、猫は独りで居るのが嫌だった。
神さまは、消えてしまいそうで怖かった。
今は、懐に潜り込んでくる温もりが、髪を撫でてくれる温もりが、傍にある。
どんなに閑 で淋しい夜も、傍 らの温もりがあれば、微笑みすら浮かべて過ごせるのだ。
「燐・・・りん・・・」
「・・・煌、明日は晴れる」
神さまの天気予報は必ず当たる。
嬉しくなって、燐をぎゅうっと抱き締める煌。
苦しいぞ、と少し身動 ぐ神さま。
「散歩に行きましょうね」
「・・・ん」
晴れたら、雨露光る杜 を歩こう。
飽きたら池の魚を冷やかしてから、乾いた屋根に上がり月が出るのを待とう。
ずっとふたりで、互いの温もりを感じながら。
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