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「もお謝ったって赦してなぞやらんからなっ!」 「噛み付かなかったじゃないですか」 「そーゆー問題じゃないっ!」 (りん)の着物を整え、髪を櫛でとかしてやる(こう)。 力が入らないのでされるがままになっているが、先程からずっと悪態を吐いている神さま。 「お前は屋根で寝ろ!」 「分かりました」 素直に即答する煌。 燐の髪をとかし終えたら、躊躇なく外へ出て屋根に上がるのだろう。 「・・・ぁ、雨が・・・降っているのだぞ・・・?」 小一時間前から雨が降っていた。 燐が気付いていたのだから、煌が知らない筈がない。 「僕は野良猫ですから、雨でも大丈夫です」 嘘を吐け。 野良猫だって雨が降っていたら屋根には上がらないだろう。 「・・・か、風邪をひいたら・・・どおする」 「今の僕は風邪なんてひきませんよ。雨に打たれながら屋根で寝ても大丈夫です」 「・・・・・」 結局、(やしろ)の中で何時もの様にふたり寄り添って横になる神さまと猫。 外が雨だと煌はよく、うつらうつらしている事が多い。 今も、眠っているのか起きているのか、瞼を閉じているかと思えば、たまに燐の髪を撫でたり、ふと見ると目が合ったりする。 「な、何だ、寝ないのか」 「燐の寝顔が見たくて」 「ぉ、お前の為に寝てやるのではないからなっ・・・・・ぃ、いいからもっと撫でろ」 煌の懐に顔を埋め、撫でろと催促する神さま。 黒猫はふふ、と笑って、燐の髪を撫でた。 雨は、さあさあと静かに降り、水琴窟が鳴っている。 こんな時、猫は独りで居るのが嫌だった。 神さまは、消えてしまいそうで怖かった。 今は、懐に潜り込んでくる温もりが、髪を撫でてくれる温もりが、傍にある。 どんなに(しずか)で淋しい夜も、(かたわ)らの温もりがあれば、微笑みすら浮かべて過ごせるのだ。 「燐・・・りん・・・」 「・・・煌、明日は晴れる」 神さまの天気予報は必ず当たる。 嬉しくなって、燐をぎゅうっと抱き締める煌。 苦しいぞ、と少し身動(みじろ)ぐ神さま。 「散歩に行きましょうね」 「・・・ん」 晴れたら、雨露光る(もり)を歩こう。 飽きたら池の魚を冷やかしてから、乾いた屋根に上がり月が出るのを待とう。 ずっとふたりで、互いの温もりを感じながら。

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