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六
「なぉー・・・ん」
「よしよし、たぁ・・・っぷり可愛がってやるからなっ」
「・・・んなーぉ・・・ごろごろごろごろ・・・」
よく晴れた昼下がり、燐 の膝上には大きな黒猫が伸びきっていた。
燐に撫でられ、気持ち良さそうに咽を鳴らしている。
まるで黒豹のように立派な黒猫は、お察しの通り、煌 である。
「今日は私がお前を玩 び尽くしてやる・・・ふふふ・・・」
「・・・んなー・・・」
昨夜も燐を散々抱き潰した煌は、罰として今日1日ただの猫でいるよう命じられていた。
わしゃわしゃと乱暴に撫でられても、尻尾を弄くりまわされても、立派な牙を触られても、大人しく猫に徹している。
寧ろ、燐に撫でられるのは好きなので、大して苦にはならない様だ。
「逆撫で~」
「なぁーお」
「耳もふもふ~」
「んなぁー」
「腹撫で撫で~」
「ぐるる・・・ぐるるるる・・・」
腹を上にし、両前足を上げて降参状態の煌。
だいぶぐったりしてきている。
「うぅん・・・これ以上やると動物虐待の様で気が咎めるな。仕方ない、そろそろ戻って良いぞ」
「・・・なぉー・・・ん・・・」
「ん?煌・・・?」
撫で責めから解放すると、煌は相変わらず猫のように鳴き、少し離れた所に座って毛繕いを始めた。
燐が声をかけても反応せず、まるで関心がないかの様に振る舞っている。
「なんだ、怒っているのか?怒っているのはこっちなのだぞ?ほら、もういいだろう、普通の猫のふりはやめろ」
「・・・・・」
「・・・こ、煌・・・?」
ちら、と燐の方を一瞥し、ゆったりと後ろ足を伸ばしながら立ち上がる煌。
そして、そのままゆっくり杜 の中へと歩いて行く。
「おい、煌、何処へ行くんだ・・・ま、待て・・・っ」
振り返らない、燐の声にも反応しない。
以前、声をかけた野良猫の様に、此方に興味がないという振舞い。
「まさか・・・煌っ!行くな!待って・・・!」
慌てて駆け出す燐。
追い付いた大きな黒猫に、形振り構わず抱き付く。
「嫌だ・・・お願い・・・行かないで・・・っ」
「そんなに可愛らしくお願いされては、何処へも行けませんね」
「・・・へ?」
いつの間にか人の姿になり、燐を抱き締め返している煌。
しかも、満面の笑み。
「く・・・っ、謀ったなこの馬鹿猫ぉっ!!」
今日も、白蛇 の杜 は平和です。
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