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(りん)」 「何だ」 「何処へ行くんですか」 「何処へも行かん」 「本当に?」 「・・・・・・・・・」 しとしとと、長雨が続くある日。 うつらうつらしている(こう)を撫でて撫でて撫で倒し、やっと寝かし付けた燐が(やしろ)を出ようとして戸に手をかけたその時、後ろから寝ていたはずの黒猫が声をかけてきた。 寝ている間に黙って出掛けようとしていた燐は、思わず何処へも行かないと言ってしまったが、本当は所用があった。 「何故、僕に、嘘を、吐くんですか?」 穏やかな笑顔と言い方が恐い。 しかも、煌の目は笑うどころか、薄暗い社の中で鋭く光っている。 「その・・・ちょっとした用事が・・・」 「お供します」 「いやいらん。雨も降っているし、お前はここで大人しく寝て・・・」 「お供します」 有無を言わさず付いてくる黒猫。 雨の中、歩かせるのが可哀想だと思って寝かし付けてやったのに・・・と、ぶつぶつ言いながらも、燐が濡れぬよう肩を抱き寄せ傘をさす煌の温もりを、内心嬉しく思う神さま。 「まったく、物好きな猫だな」 「僕は燐が好きなだけです」 「・・・っ、か、勝手にしろっ」 静かに降る雨音が、白蛇(はくじゃ)(もり)を包んでいる。 降り注ぐ銀糸に、空気は浄化され清:(す)みきっていた。 「それで、何処へ向かっているんです?」 「滝だ」 白蛇の杜は山の麓にあって、その山の中腹辺りに滝があるのだと言う。 木々の間を縫うように、山肌を進んで行く。 雨の中、人が登るには険しい道も、神さまとその加護を受ける猫には大したことはなかった。 程なくして目的地に着くと、燐は真剣な顔で滝を見詰めた。 煌も黙ってそれを真似る。 「・・・・・・・・・うん、大丈夫そうだな」 「何がですか?」 「雨が続くと山が削れて流れる事がある。流れれば山は止まらず、麓の村を飲み込んでしまう。この滝を見れば、山が流れるかどうか判るんだ」 帰ろう、と燐が言うと、煌は抱き寄せていた燐の肩を放した。 そして(うやうや)しく彼の手を取り、傘を全て燐のために使った。 「な、何だ、急に(あらた)まって」 「燐は僕にとっても神さまですから。今までの非礼をお許しください」 まるで従者の様に振舞い出した煌に、神さまが言った。 「・・・こ、これだと寒い。行きと同じ様にしろ」 少し頬を赤らめ、視線を逸らしながら。 煌は、そんな燐を我慢できずに抱き締めてしまった。 「燐が許したんですからね。燐を僕の好きにして良いと」 「なっ、好きにして良いとは言ってな・・・んぅ・・・っ」 それから(やしろ)までの道程を、神さまと猫はゆっくりくだって行った。

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