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第6話 ゴリラの好きなもの

花凛の部屋まで荷物を運び、食事の為に車に戻る。 松崎の手を借りたから一往復で済んだもの、朝一手ずから焼き上げたスコーンとクロテッドクリーム、アイスティーはとっくに母と上の姉の腹の中で。気分的にはプラマイゼロ…いや、寧ろマイナスの心持ちだ。 「なんだよ。お姫様はご機嫌斜めか?」 信号待ちで停車すると、松崎はツンと唇を尖らせた裕翔の頭を宥めるようにぽんぽんと撫でた。 当然、益々気分を害す反応を楽しむことまで織り込み済みだ。 「姫じゃないし、別に機嫌悪くもないです」 「そうか〜?」 「そうです」 「あ、昼飯パスタでいいか?」 「……パスタ………」 言葉を繰り返すなり、何故か裕翔は動きを止める。それを気に掛けながらも、青信号に変わり前の車が走り出すのに続いて松崎も滑らかに車を発進させた。 「なに? パスタ嫌いだったか?」 「あ……、いえ、好きです、けど…」 「けど?」 「松崎さんからパスタなんて言葉が出るとは……」 「なんだそりゃあ」 どう言う意味かと訊ねれば、また失礼を全面に出した理由で返される。 「ゴリラはパスタなんて食べないと思ってまし…いてっ」 “ゴリラ”に反応した松崎が、裕翔の頭を小突いた。 口元の笑みを見れば本気で怒っていないことなど丸分かりだから、これはただの条件反射である。 「なら、お前からは俺が何を好きそうに見えんだよ?」 「え、……と、……肉?」 「ああ、肉な。普通に好きだわ」 「麺なら、ラーメン…とか」 「ラーメンも好きだな」 「あと、バナナ」 「あくまでゴリラに拘んのかよ!」 右折中だから運転に集中していて、派手にツッコむことは出来ない。 せめてもと大声でなされた抗議に、裕翔はむくれていたこともすっかり忘れて、勝ったとばかりに声を上げて笑った。

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