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第11話 犯人の自白

脱衣所にバスタオルは用意されていたけれど、当然のようにドライヤーは無くて。 ああ、あの短髪にそんな物は必要ないか…… 裕翔は諦めて、バスタオルで出来る限り髪の水分を拭きとってからリビングに戻った。 「お風呂ありがとうございました」 「おう。……っと、」 ダイニングテーブルに朝食を運んでいた松崎が、裕翔を目にした瞬間、表情を歪めた。 「そうかぁ。そんだけ長けりゃ、ドライヤー()ぇと乾かねーよなぁ」 「松崎チーフは、……タオルドライ派ですよね…?」 「まあなぁ。テキトーに拭いときゃその内乾くからな。セットも必要無ぇ髪だし。やっぱ不便だな、長ぇと」 ははは…と乾いた笑いを返す。 「言っても、そんなに長いわけじゃないんですけどね…」 確かに、課内では一番髪が長いことは認めるが、社会人として不適切な、不潔なロン毛と言う訳じゃない。 課内には二課長以下、何故か裕翔以外は先輩、同期共に全員、筋肉系スポーツマンで揃えられている。そこに自分が入っていること自体がまず可笑しいのだ。 一課には、人当たりのいい爽やか系が集められている。いや、人当たりの良さだけなら二課の人間も持ち得ているが。 しかし、自分が営業部に所属するなら二課ではなく一課だろう、と入社当初から5か月経った今でさえ疑問が消えない。 そもそも裕翔の美人と評される顔の造りには、短い髪型が似合わない。 どうしても仕事に支障をきたすなら切らざるを得ないが、出来るならばこのままでいたい。 もし髪を切れなどと言われてしまえば堪らない。 今の裕翔であればキッパリと「嫌です!」と言い切れるもの、当時は入社したての新卒新入社員。多少の無理だろうが従わなければクビにされてしまうかもしれない、と思い込んでも無理はない。 両親や姉からも、少しくらい嫌なことがあっても簡単に仕事を止めるなと、キツく言われている。 その時、裕翔の迷う心にパッと妙案が浮かんだ。 「───あのっ、そんなことより」 話の流れを断ち切るように、いつの間にか自分の髪を弄んでいた男を見上げ、声を掛けた。 松崎が気になることで話を逸してしまえばいいんだ。 「布団、ダニがいるみたいですよ」 「は?ダニ? いねぇだろ、んなもん。一昨日、布団乾燥機掛けて、ふとんクリーナーで掃除したばかりだぞ」 不本意、とばかりに眉根を寄せる松崎。 「いますって。だって俺、刺されてましたもん」 「ああ?ドコだよ? 見してみ」 「………イヤです」 「はぁ? なんでだよ」 「やです。セクハラです」 「なんでセクハラになんだよ」 「だって……、胸のトコ……」 恥じらい、言葉を詰まらせる裕翔の様子に、松崎の眉が僅かに反応した。 「ほぉ……、胸のトコ、ねぇ…」 口元が緩み、目がニヤリとやらしく細められる。 「それ、ダニじゃなくて俺だわ」 「………え…?」 「ダニに刺されたにしちゃあ痒くねぇだろ?」 「は……? いや……えっ?なんで…??」 「スーツ着たまま寝ると皺になっだろ。声掛けても全然起きねぇから、勝手に着替えさせたんだけどな」 「そ…れは……、ありがとうございます……」 「シャツ脱がしたら、ちっけーのに健気にチョコンって勃ってる乳首がやたら旨そうに見えてさぁ」 「旨そう…って……」 「頂きました」 「なっ………!?」 頂いた……だと───!? 「お前、感度いいのな。気持ち良さそうにアンアン啼くもんだから、ついつい調子乗って散々吸いついちまった。  だからそれ、ダニじゃなくてキスマークな」 「っ!! 〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」 「ん? なんだよ、真っ赤な顔して」 真っ赤にもなるわっ!! このっ─── 「ヘンタイ〜〜〜っっ!!!」

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